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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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透き通る世界

 そして今、その災厄が再び降り注ごうとしている。

 ビン子の手によってばらまかれた無数のゲジゲジが、真音子の顔めがけて――!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 これで正気を保てというほうが無理なこと。

 真音子の意識が弾け飛んだ! 

 いや、飛んだのではなく……目が座った。


 ――ああ……これが透き通る世界、というやつか……

 飛来する虫の群れが、はっきりと、スローで見える。

 かつて、竈門(かまど)炭十郎が言っていた――

 『頭の中が透明になると“透き通る世界”が見え始める。しかしこれは、力の限り踠いて苦しんだからこそ届いた領域』

 真音子もまた、十分に踠き苦しんできた。

 夜な夜な襲ってくる悪夢。

 朝になれば、広がるおねしょの跡。

 何度も何度も克服しようと、必死に頑張ってきた。

 炭治郎と同等、いや、それ以上に努力してきたという自負がある。


 そのかいあってか――

 周囲を取り囲む多足生物の気配すら、細やかに感じ取れる。

 木々に潜む蜘蛛。

 石の下に潜むムカデまでも。


「くらえっ! 全方位対応型・自動ゲジ掃討戦術兵器! 発射ぁぁぁ!」


 真音子がその場で勢いよく回転!

 閃光のように髪が舞い、無数のクナイが弾丸のごとく四方へ炸裂する。


 ひゅんッ、ひゅんッ、ひゅんッ!

 飛来する多足どもが次々と撃ち抜かれ、木に、岩に、イサクの紙袋に――串刺しにされた。


 一瞬で災厄を殲滅する兵器。

 それが、今の真音子だった。


 対象を認識するよりも先に、手が動いた。

 世界は透け、音は消える。

 残るのは己の動き――細胞の震えさえも感じ取れるほど鮮明に。

 その研ぎ澄まされた感覚が導くのは、ただひとつ。撃ち滅ぼすべき災厄。

 真音子は無心にクナイを振り続けていた。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 悲痛な悲鳴が洞穴に響き渡る。


 小門の壁には無数のクナイが突き刺さっていた。

 その影からにゅるりと伸びたのは、大人の足ほどもある蜘蛛の足。

 無数の毛が生え、先端にはいくつものクナイが深々と刺さっている。

 足は激痛にのたうち、暗闇の中でうねるように振り回される。

 やがて突き刺さるクナイは振りほどかれ、足は闇の奥へと引き込まれた。


 奥からぎらりと光る緑の眼。

 苦虫をつぶしたような猿の顔。

 出口へ辿り着いた、ビン子を追う魔物だ。


 だが、踏み出そうとしたその瞬間、外から襲いかかる無数のクナイの雨。

 ――危ない……シコ……


 緑の眼は忌々しそうに、いまだクナイを投げ続ける真音子をにらむ。

――今は……まだ、その時ではない……シコ……


 ふと気づく。まだあの大空洞には、人間が一人残っていたことを。

 ――ならば、あの危なっかしい女がいなくなるまでの間、先にその男を……シコ……


 魔物の眼が、暗闇にすっと消える。

 ガサガサと音を立て、元居た奥の大空洞へと戻っていったのだった。


 魔物がそこにいたことなど、真音子はつゆ知らず。

 というか、無心にクナイを投げ続けていた。

 だが……真音子はひとつの事実を忘れていた。


「ひぃぃいいいいいいいいい!」

 投げても投げても、頭の上を這いずるゲジゲジにはクナイが全く届かない。


 理屈は単純だ。投げられたクナイは運動量と角度をもとに初速を保ち、飛翔軌道を描く。だが対象が頭上、すなわちゼロ距離に存在する場合、弾道は成立しない。つまり――投擲は完全に無力。体勢、反応速度、摩擦、重力、角度……あらゆる条件を無視しても結果は同じ。クナイはただ空を切り、虚しく消えるだけだった。


 真音子は必死だった。

 頭上を這い回る無数のゲジゲジから逃れようと、無我夢中でクナイを振り回す。

 恐怖に支配された視界は歪み、心臓は乱打の太鼓のように鳴り、呼吸は荒く、喉は焼けるように痛む。

 全身の筋肉は痙攣し、もう自分の手足すら自分のものではないように震えていた。


 ――届かない。

 ――逃げられない。

 ――ならば……。


 ひとつの歪んだ答えが、脳裏をかすめた。

 逃げられぬのなら、刺せばいい。

 突き刺して、突き刺して、頭をクナイの針山に変えてしまえばいい。


 ――そうだ、それなら逃げられる!

 ああ、ゲジゲジを突き刺せばいいんだ!

 こうして、こうして……ブスッ、ブスッ、ブスッ!と


「あはははははははははは!」


 限界を超えた真音子の理性は、音を立てて砕け散った。

 透き通る世界は一気に色を失い、絶望と狂気の赤に染まった。


「危ない! やめてください、お嬢!」

 頭にクナイを突き刺そうとする真音子の腕を、イサクが寸前で押さえ込む。

 マジでこのままでは自分を刺しかねない。


 見かねたイサクは、真音子の頭を這っていたゲジゲジをひょいと摘み上げた。

「お嬢、取れましたよ! もう安心してください」

 そう言いながら、摘んだゲジゲジをわざと真音子の顔の目の前に突きつける。


 目が点になる真音子。

 再び、時が止まる。


 恐怖と緊張で積み上げていた気力の壁が、音もなく崩れ去った。

 視界はにじみ、全ての色がぐしゃりと混じり合って消えていく。


 ――もう、無理。

 ――もう、こらえられない。


 次の瞬間、真音子の顔は子供のように歪んだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 絶叫を上げると、彼女は脱兎のごとく森の奥へ駆け出した。

 涙と鼻水をぐちゃぐちゃに垂らしながら、ただひたすら母の名を叫ぶ。


「おかあさまぁぁぁぁぁぁ! たすけてぇぇぇぇ!」


 イサクはやれやれといった顔で肩をすくめ、すぐさま真音子の背を追いかける。

「お嬢! 座久夜(さくや)の姐さんは今、医療の国ですぜ!」

 って……そんな情報は今、必要ないだろ!


 一方そのころ。

 森の中でタカトたちを探していた権蔵の耳にも、真音子の悲鳴とイサクの声は届いていた。

「まったく……何を騒いどるんじゃ」

 やれやれと頭をかきながら、権蔵は声がした方向、すなわち小門のほうへと足を向けた。

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