続・この出会いなければ…(3)
ミーキアンの城の庭はまだ暗い。
小屋の窓から月を見上げるミーキアンの目はどこか寂しそうであった。
椅子に座るタカトが、怒鳴り声をあげた。
「この出会いがなければ……エメラルダの姉ちゃんは騎士のままでいられたんじゃないか!」
「……そうかもな……」
「しかも、お前が、エメラルダの姉ちゃんに手紙を出してたんだろ! なんでだよ!」
10年ほど前、魔の融合国の上空を飛ぶミーキアン。
その日も月がきれいであった。
まん丸の月に少しでも近づこうと、ミーキアンは夜な夜な羽ばたくのである。
だが、ミーキアンの羽では、それ以上月に届くことはない。
月はあんなにはっきり見えるのに、手を伸ばしても届かない。
あの人がいる場所は見えるのに、迎えに行くことも叶わない……
会いたい……会いたい……会いたい……
夜の空に雌クジャクの鳴き声が響き渡る。
そんな時、魔の融合国のはずれで異変が起きた。
荒れ地の岩肌から突然、命気が噴き出したのだ。
しかも、それは一瞬の事。
何かが爆発するかの如く瞬間吹き出し、瞬く間に静寂に戻った。
おそらく荒神監獄として使っていた小門の中にたまっていたものが噴出したのだろう。
荒神は爆発とともに命気を噴き出し存在が消えるのだ。
おおかた、かなり以前に荒神が爆発した際に発生した命気が命の石にもなれず、圧縮されていたのだろう。
こういうことはよくあること。
だが、荒神の命気にしては、やけに噴き出す量が少ない。
と言うのも、小門の入り口は一つしかないことが多いのだ。
ということは、あの小門にはおそらく他にも吹き出し口があるのだろう。
たぶん聖人国側にも小門の口が開いており、そこからも命気が噴き出したのに違いない。
それを見たミーキアンは確信した。
――あの小門は、聖人国につながっている。
このように魔人世界と聖人世界にそれぞれに入り口をもつ小門と言うのはかなり珍しいのである。
ミーキアンは、見つけた小門を使い、エメラルダに連絡を取ろうと考えた。
自分が抱くこの戦いの意味。
それを人間であるエメラルダに問うてみたかったのである。
と言うのも、ミーキアンの周りにいる魔人たちは、いくら知能がついたとはいえ、己が存在理由など考えもしない。
ただ、本能のままに食らい楽しむ。
戦いになど理由はない!
そんなくだらない回答しか戻ってこないのだ。
いや……それが真実なのかもしれないが、ミーキアンにはどうにも納得ができなかった。
ならばこそ、文化を持つ人間に問うてみたいのだ。
だが、かといって魔人のミーキアンの問いに、まともに回答する人間などいるはずもない。
聖人世界と魔人世界は敵同士。
まして、人を食らって進化する魔人である。
警戒されて当然なのだ。
だが、エメラルダならもしかしたら。
ミーキアンはそんな淡い期待を抱かずにいられなかった。
しかし、小門を通ることができるのは、一般国民と奴隷だけである。
騎士であるミーキアンは通れない。
信頼のおけるミーアもまた神民魔人のため通れない。
ミーキアンの奴隷のリンは?
この時のリンは、第三の門の中で魔の融合国に攻め入ろうとするレモノワの部隊を相手にしてそれどころではなかったのだ。
全滅を一度味わえば懲りるものと思っていたが、無駄に何度も攻めてくる。
そのたびに、聖人世界の駐屯地までわざわざ警告しに行かないといけないのである。
「バカじゃないの!」
そんなふくれっ面のリンを、ともに戦うミーアが懸命になだめていた。
まぁ当然、一般国民以下の魔人や魔物なら小門を通ることは可能だ。
ならば、リン以外の魔人などを使いにやればいいのではないかと思いもする。
だが、エメラルダがいるのは聖人世界の融合国。
すなわち人間の世界だ。
そんな世界に、緑の目をもつ魔人や魔物が歩けば、すぐに見つかり騒動の元。
たちまち守備兵が駆けつけて、あっという間に駆除される。
まぁ、たまにピンクのオッサンのような得体のしれないモノも一緒に駆除されこともあるが。
なら、人間の奴隷でいいではないか。
実は、その通りなのだ。
しかし、この時のミーキアンの手の内にある奴隷はリンのみ。
エメラルダのもとに送ることができる奴隷がいなかったのである。




