お前らに食わせる飯はネェ!(2)
そんな子供たちが泣きじゃくる様子を見かねた競売人が声をかけた。
「なんだ、なんだ、一体どうしたというんだ? おっ? お前たち三ツ木マウスの子供か? これまた珍しい」
子供たちは、軽売人を取り囲み次々に訴える。
「あの兄ちゃんが、ごちそうを買ってやるって言ったのに嘘ついた!」
「俺たちのごちそうを奪っていきやがった!」
「モグラの倶楽部のリーダは! 三ツ木マウス! 三ツ木マウス! 三ツ木! 三ツ木! マンモス!」
「やばぁぁぁぃ! これちょっとやばいんじゃないいいいい!」
「腹減ったァァァァ!」
軽売人は、困った様子で頭をかいた。
そして、タカトに提案する。
「俺が言っちゃいかんのだが……なぁ、兄ちゃん、人間の一匹ぐらいこの子たちに食わしてやれよ」
タカトは即答する。
「イヤだ!」
「この子たち、こう見えても大きくなったら結構役に立つぜ」
子供たちの40の瞳がウルウルとしながらタカトを見つめる。
いつものタカトなら、この子供の瞳に心が動かされたことは間違いない。
しかし、今は違う。
自分が背にしているのは先ほどまで奴隷として売られようとしていた人間たちなのだ。
絶対に食べさせるわけにはいかない。
「断固として断る!」
三ツ木マウスの兄ちゃんは、先ほどの魔物バトルでグレストールの腹の中。
しばらくの間は帰ってくることはないだろう。
まぁ、帰ってきたとしても、おそらく、黒と白の小さな塊になっていることだろう。
あの蛇、あれだけ食ったのだ、消化には2週間ほどと言ったところか。
あっ……ズボンは消化できないから、ウンコにはならないよね。
帰らぬ兄ちゃんを待つ幼き兄弟たち。
かと言って、やはりタカトの心は揺れ動く。
タカトは、競売人の魔人に向かって残りの大金貨一枚を放り投げた。
魔の融合国でしか手に入らないような融合加工の道具や素材をせっかく買おうと思って、のけておいた一枚だ。
心の片隅のどこかでは自分の買い物も少ししたかったのである。
そんなせこい思いがなかったと言えばうそになる。
「これで、その子たちの面倒を見てくれないか」
タカトは競売人の魔人に頼んだ。
人間である自分が、この子たちの面倒を見続けることはできない。
かと言って、人間の奴隷は食わせたくない。
ならば、残った大金貨を子供たちの生活費に充ててもらうというのはどうだろうか。
無理難題と分かってはいたが、タカトにはそれしか思いつかなかったのだ。
「いいぜ」
だが、競売人の魔人から帰ってきた言葉は意外なものだった。
と言うのも、三ツ木マウス、こう見えても人気がある魔人なのだ。
呼吸をするたびに集中する。
走るのも早い。
穴を掘るのも早い。
そう、土木工事には向いているのだ。
どこぞの国で建設中であるテーマパークの工事現場にでも放り込めば、人気者まちがいなし。
タダ……力がないのが欠点。
大金貨を受け取った競売人は、三ツ木マウスたちの頭をなでる。
「あの兄ちゃんから、たっぷり金を貰ったから、たーんと飯食わしてやるぞ!」
「やったぁー!」
「兄ちゃんありがとう!」
「人間! 今からお前が兄ちゃんだ!」
子供たちの顔は笑顔になった。
そんな笑顔にホッとするタカトであったが、念を押す。
「だけど! 人間は食わすなよ!」
競売人は呆れた顔をした。
「それじゃ、俺たち魔人は進化できないだろ……」
だが、タカトは食い下がる。
「絶対に! 人間は食わすなよ!」
あきれた競売人は適当にあしらった。
「わかった! わかったよ! 兄さんの目の前では食わないから安心しな!」
競売人は、20人の三ツ木マウスを引き連れて広場を後にしていった。
えっ?
三ツ木マウスはハトネンの神民魔人じゃないのかって?
それはお兄ちゃんだけね!
まだ、成長しきってない幼い兄弟たちは、まだ、神民魔人になれなかったのですよ。
だから、一般の魔人だからどこに行くのも自由。
競売人について行っても問題ないんです。
まぁ、今のタカトと同じような身分ですね。




