カウボーイの盗賊(3)
「おっと! これはハトネンの旦那! 失礼!」
ダンディは、カウボーイハットの頭に手をやと、改めて帽子をかぶり直した。
そして、急いで開け広げられた主賓室の前面に向かって飛び出そうとしたのだが、その足は寸でのところで止まってしまった。
ダンディは思ったのだ。
せっかく、魔人騎士がいるこの主賓室に危険を冒してまでやってきたのに、わざわざ手ぶらで帰るのは無いだろう。
しかし、依頼主であるマロが要求していた黄金弓はすでに死んでいた。
マロの要求を満たせないのは確実だ。
だが、このままマロのもとに帰ったのでは、今度はダンディの要求が満たされない。
――ならば、他の何かをいただいて帰りますか!
と、優勝賞品が積まれた台から、いくつかの商品をつかみ取った。
ちなみにマロとは、ここまでの話には出てきていないので知らないと言う人は、当然なので安心してほしい。
このマロという人物は魔の養殖の国の魔人である。
その養殖の国の街はずれで、食用の人間を繁殖し他の魔の国へと輸出して大金を稼いでいるのであった。
では、なぜ人間であるダンディと取引があるのか。
それは、後の話につながるのであるが、まぁココで言えるのは、マロと言う魔人は大のアイテムオタクなのである。
珍しいアイテムを集めるのが大好き。
何の理由かは知らないが、とにかく、稼いだ金に物を言わせて、ひたすら集めている。
そのアイテムをいろいろな奴から買い取れるだけ買い取っているのだ。
その買い取る先の一人がダンディと言うだけの事である。
ハトネンが立ち上がった勢いで、その座っていた椅子がバタンと倒れた。
「貴様、俺が魔物バトルを邪魔されるのが嫌いだという事を知っての狼藉かぁぁぁぁ!」
ネズミの顔に吊り上がった目。
その真ん中には、大きく開け広げられた細い口が、赤々と大きく広がっていた。
そして、怒鳴った!
「魔獣回帰!」
主賓室の中で、ハトネンの体が盛り上がる。
見る見るうちにハトネンの体が巨大なネズミへと変わっていく。
大きなネズミの背が、主賓室の天井をぶち破る。
とんがったネズミの巨大な顔が部屋に収まりきらず、主賓室の前面からはみ出していくではないか。
しかし、ハトネン……本当に、魔獣回帰が使えたとは知らなかった。
今の今まで、第七の騎士の門内で一之祐とバトルする時ですら使ったことが無かったのである。
まぁ、騎士の盾を使うだけで精いっぱいだったと言うこともあるのだろう。
だが、魔物バトルを邪魔された怒りは、それだけ本物のようである。
「あら……もしかして、ハトネンの旦那、怒ってらっしゃいます? それでは、早々に失礼しますわ! では!」
ダンディは、徐々に大きくなるハトネンの体に押し出されるかのように、開け広げられた主賓室の前面から飛び降りた。
だが、ココはスタジアムの上段にせり出すように作られた主賓室。
その下の観客席との間には、高さ3階ほどの高低差がある。
ダンディは盗賊、いや、カウボーイといえどもタダの人間なのだ。
この高さから落ちれば、当然、骨折ぐらいはするだろう。
だが、ダンディもアホではない。
飛び降りると同時に、腰につけたロープを投げ上げた。
ロープの先端が、ハトネンが変形した巨大なネズミの鼻にかかった。
ハトネンが、それを嫌うかのように顔を反る。
その反動で、地面に衝突する寸前のダンディの体が跳ねあがる。
そして、その瞬間に手を放すダンディは、無事、観客席へと着地しることができた。




