カウボーイの盗賊(1)
さて、そんなレースも終盤局面。
レースの主催者であるハトネンは、主賓室の真ん中にある椅子で相も変わらずつまらなさそうに頬杖をついていた。
主賓室は、スタジアムの最上段に作られた小さな部屋。
その前方は、レースの内容がよく見えるように完全にオープンになっていた。
オープンと言っても早い話、壁もガラスも何もない。
要は、あけっぴろげの空間なのだ。
おバカな奴だと足を踏み外して下のトラックへと落ちてしまうような問題ありありの構造なのである。
こんな構造だと、聖人世界だと違法建築として行政指導が入りそうなものであるが、なんてたって、ココは魔人世界!
違法建築なんてクソくらえ! である。
と言うか……おそらく魔人たちの頭では、なにが、良くないのか理解できていないのだろう。
先ほどから、ハトネンの中指が自分の太ももをトントンと何度も小突いている。
その足元には、ビリビリに破かれた魔物券が無数に散らばっていた。
その魔物券のどれもが、三ツ木マウスにに賭けられたもの。
だが、魔物バトルに参加させた三ツ木マウスは、スタート早々、グレストールに食われてしまった。
もはや、その魔物券はただの紙屑。
すでにすることのなくなったハトネンには、面白くも何もない。
今は、ただ、レースの行方を見守るしかなかった。
まぁ、唯一の楽しみとしてあげるならば、シウボマのグレストールがボロ負けする姿を見ることぐらいなのだろう。
しかし、それも、可能性は低い……
すでにレースは最終周、そのグレストールの相手をするのは、なんと半魔の犬なのだ。
――どうやって半魔ごときで三頭蛇に勝てと言うのだ……つまらん……
ハトネンはひげをひくつかせながら、大きなあくびをした。
そんなハトネンの左前方には優勝者に与えれられる賞品が飾られていた。
しかも、魔物バトルに参加する選手たちからよく見えるように、何も仕切りのない床ギリギリに置かれている。
当然エメラルダの黄金弓も、その賞品が飾られている台のうえで金色の光を放っていた。
今回の賞品はどれもこれもレアな商品ばかり。
そのため、いつもよりも警備が厳重にされている。
と言っても、いつもいない警備用の魔人が一人、その台の後ろで立っているだけなのだが。
そもそも、今回のレースは魔人騎士であるハトネンが主催した魔物バトルだ。
そんなバトルの優勝賞品をかっさらおうもうモノなら、ハトネンが絶対に許さない。
いくら第七の騎士の門で一之祐に負け続けているハトネンと言っても、一応、魔人騎士である。
当然、騎士の盾や魔獣回帰だって使えるのだ。
怒り狂ったハトネンに対抗できるのは、同じ魔人騎士でないと無理なお話し。
普通の魔人や人間である奴隷など、その前では、ほぼ無力なのである。
そんなことは、魔物バトルを見に来ている魔人たちであれば、だれでも分かっている。
いや、スタジアムに来ている魔人に限らず魔の融合国内の者であれば、その道理は容易に理解できていた。
だからこそ、目の前の超高級なレアアイテムがあったとしても、決して手を出すことさえしない。
まぁ、知性の低い魔物や魔人の類であれば、そのレアアイテムの価値すら分からないという事もあるのかもしれない。
先ほどから優勝賞品が並べられている台の後ろで、背筋をのばす一人の魔人。
ハトネンが側にいる為か、じーっと前を見て動かない。
よほど仕事熱心な魔人なのだろう。
と、思ったら、頭が、カクンと沈んだ。
その瞬間、急いで、元の位置に戻ると、小さく首を振った。
しかし、しばらくすると、鼻から膨らんだ風船が大きくなったり、小さくなったり。
もしかして、この魔人……寝てる?
そういえば、先ほどから頭が小さく船をこいでいるような……
そんなアイテムを警護する魔人の背後から男の声がかけられた。
「交代の時間だ……」




