二週目(4)
その証拠に、スタート地点にスキップで戻ってくるゴリラの魔物。
もう、余裕である。
目の前でグレストールとライオガルが血みどろの死闘を繰り広げているのに、我かんせずの様子である。
ゴリラにとって、目の前の死闘など関係ないのだ。
もし、その三匹の魔物のいずれかが襲って来れば、その瞬間に、水弾が目を打ち抜く段取りになっているのだ。
鍛えることのできない眼球。
グレストールだろうが、ライオガルだろうが目を閉じることは、ほぼ間違いない。
ゴリラは、スタート地点に陣取るグレストールへと近づく。
そんな時、上空のカマキガルがバランスを崩した。
おそらく、ちぎれた羽が持たなかったのだろう。
カマキガルの体が、一直線にゴリラに向かって落ちる。
その後を、グレストールの二つの首が追いかけた。
まるでその様子は、スタジアムから見るとカマキガルがゴリラを上空から襲うかのようであった。
長兄のゴリラの魔人は絶叫を上げた。
「マズイ! やっぱりあのカマキガルを狙え!」
テッシーは、すぐさまカマキガルの目に狙いを定めて、2発の水弾を放つ。
パン! パン!
カマキガルの目に水弾がヒットした。
しかし、カマキガルの勢いは止まらない。
それどころか、カマキガルは目をつぶらない。
というか、目をつぶることができないのだ。
カマキリの魔物であるカマキガルの目は当然、複眼。
まばたきなどする必要もないのだ。
ゴリラ魔人の脳みそでは、そこまでの知恵は回らなかったようである。
落ちるカマキガルは、とっさに足でゴリラの頭を蹴った。
その反動でカマキガルの体が、再び上空へと向きを変えた。
頭を蹴られたゴリラは、一体何がおこったのか分からない様子。
自分には絶対に攻撃が向かないと言われていたのに、上空からカマキガルは蹴ってきた。
援護は一体どうなっているの?
これは一体どういう事?
だが、問題はその後だ。
カマキガルの後から迫るグレストールの頭が二つ。
一つは上空へと舞い上がったカマキガルを追う。
そして、スピードが落ちたカマキガルの腹にガブリと食いついた。
グレストールの口につかまったカマキガルは懸命にもがくが、すでに腹はつぶれている。
そして、残る一つは頭をゆっくりと鎌首を持ち上げ舌をチロチロと出している。
その目のは、蹴られてキョトンとしているゴリラに狙いを定めなおしていた。
長兄ゴリラは大声を上げる。
もう、周りの目など気にしていられない。
「やばい! やばい! 早く! 早く! グレストールだ! 早く!」
細い筒の先端が、ゴリラの魔物を狙うグレストールの眼球を狙った。
今度のターゲットは大型のグレストールだ。
しかも、観客席に近いスタートライン。
眼球もデカい。
なおかつ複眼ではない。
おそらく、この少年にとっては朝飯前だろう。
トラックの一番遠いところにいるハヤテの眼球を狙えるぐらいなのだから。
少年が、大きく息を吸い込んだその時であった。




