満を持して! ミズイ様の降臨じゃ!
それは――たわわに実った二つの果実。
いや、果実じゃない! スイカだ! 爆弾級のスイカだ!!
突然、タカトの目の前に金色の光がぱっと広がり、眩しさとともにその質量を膨張させていった。
光の中から現れたのは――巨乳美女!
黒いローブに身を包んでいるが、サイズが三つくらい小さいせいで、あらゆる場所がパッツンパッツン。
特に胸と尻は布の限界値を突破し、今まさにボタンが弾け飛びそうな勢い!
限界突破の色気に、タカトの鼻の下はデロ~ンとだらしなく伸びきっていた。
さっきまでの命の危機? そんなもの、もうどこ吹く風である。
そう――この美魔女こそ、鑑定の神ミズイ。
光の中でふんぞり返ったミズイは、したたかな瞳でタカトを見下ろす……いや、完全に見下していた。
「満を持して! ミズイ様の降臨じゃ!」
彼女のつま先がゆっくりと地面に降り立つと同時に、光球が円環となって地を這い広がっていく。
迫りくるクロダイショウとオオヒャクテの群れがその光壁に触れた瞬間――パンパンッ!
まるで風船のように弾け飛び、魔血を四散させながら次々と消し飛んでいった。
この光の壁――それこそが『神の盾』。
『騎士の盾』と同じく、いかなる存在にも破られることのない絶対防壁。
例え神であっても、これを壊すことはできない。
騎士や神が“不死”と呼ばれるのは、この盾あってこそだ。
だが――その発動には莫大な生気を要する。
騎士の生気も無限ではない。
不足分は、神民の命を糧に補われる。
すなわち、騎士が死に瀕したとき、その命を削る代わりに、神民の寿命が消し飛ぶのだ。
国を持つ神――たとえば融合の神であれば、その国の神民すべてが“担保”となる。
一人ひとりの命を少しずつ削り、神を支える。
だが、鑑定の神ミズイは違う。
彼女は国を持たぬノラガミ。
ゆえに、支える神民などいない。
ただひとり、自らの生気を削って、この『神の盾』を発動しているのだ。
神といえど、生気は有限。
尽きれば――荒神へと堕ちる。
その危うい綱渡りを承知で、ミズイはタカトの前に降り立った。
まるで「命など惜しくない」とでも言うかのように。
もちろんタカトは、神の盾だの生気だの……そんな事情など知るよしもない。
ただただ、目の前の巨乳に心を奪われていた。
「うおっ! グラマラスなおばさま!」
その一方で、ミズイはというと――あたりをきょろきょろ。
まるで何かを探すかのように視線を巡らせる。
――よし。あのノラガミはおらんな!
どうやら、同じ神であるビン子が近くにいないことを確認して、ほっと胸をなで下ろしたらしい。
いや、胸をなで下ろすというか……胸がデカすぎて、むしろ谷間に手が沈んでいた。
「大変そうじゃの。助けてやろうか」
地に足をつけたミズイが、いやらしい笑みをタカトに送る。
その笑みは――策を持っている者の自信。だが同時に、何かを要求する気配でもあった。
それをいち早く感じ取ったタカトは当然に。
「金はないと言っとるやろが!」
と、ポケットを押さえた。
よほど大銅貨一枚(日本円にして約100円)が惜しいらしい。
命の危険より財布の中身を優先するその姿勢、もはやケチを通り越して執念である。
体をねじってポケットをミズイから遠ざける拍子に、わきのスライムの顔はビローンと伸びる。
対して、タカト自身の顔は喧嘩中の猫のように毛を逆立てていた。
「ふーーーーっ!」
そんなタカトの鼻先に、ミズイがそっと顔を近づける。
老婆だった頃のしわは消え失せ、切れ上がった目尻には妖しい金色の光。
滑らかな肌は紅潮し、ほんのり甘い香りがタカトの鼻をくすぐった。
一瞬、心を奪われかけたその耳に――熱を帯びた吐息とともに囁きが届く。
「金は要らん。その代わり……お前のセイキを寄こせ」
――性器をよこせ!?
まさか美魔女からの愛のお誘い!?
……いや待て。冷静になれ。
この場合のセイキは「性器」ではなく「生気」の方だ。
「アホか! そんなことしたら、またぶっ倒れるだろうが!」
そう、小門の洞穴に入る前も、こいつに生気を吸われて眠気で沈没したばかりなのだ。
そして目が覚めたら、この地獄。
「もとをただせば全部お前のせいじゃ! このクソババア!」
タカト、怒りの爆発!
いや正確には――欲望の爆発である。
責任をとれと言わんばかりに飛びかかり、オッパイを揉もうとしたのだ。
しかしミズイは、ひらりとそれをかわす。
「そうか、ならば――さらばじゃ」
光球がふわりと昇りはじめ、境界線が縮まっていく。
同時に魔物たちの群れが、足元へと迫る。
――ひぃぃぃぃぃぃッ!!
タカトの顔から血の気が引き、膝がガクガク。
そして、わずか0.1秒で土下座モードへ完全シフト。
「お姉さま♡ そんなに急いで帰らず、もう少し……お話していかれませんでしょうか♡」
ミズイは冷たい眼差しで見下ろし、鼻で笑う。
「なんじゃ、気でも変わったか」
仕方なさそうに光球が下りてくる。
再び足元の光の円環が広がり、魔物の群れを押しのけていった。
――助かったぁ……。
タカトは胸をなでおろす。
……いや、実際になでていたのはスライムの顔だった。
タカトは胸の前で、手ではなくスライムをコネコネ……。
「いやぁ、その……わたくし、生気を吸われますとですね……さすがにクラクラっときまして……そのあと動けなくなってしまいますのでございまして……」
ミズイの機嫌を損ねれば、この光の結界から放り出される――その現実だけは理解していた。
「で、動けなくなったら……この魔物どもに即・パクリでして……」
タカトは額から汗をだらだら垂らし、必死に言葉をつなげる。
ビン子が助けを呼んで戻ってくるまで、何としてもこの光の中に留まりたかったのだ。
「ですから、ええと……その……ミズイお姉さまが! 具体的に! どのようにこの状況を打開されるのか! ぜひとも! お伺いしたいわけでございますです!」
必死の媚びトーク。
だがミズイは冷ややかな視線を落とし、吐き捨てるように言った。
「……なんじゃ、そんなことか」




