人食いの少女(1)
「あ……ありがとう……」
ビン子がリンのもとに駆け寄ると、その横で尻もちをついているタカトを引っぱり起こした。
魔血で顔が真っ赤なタカトもまた、興奮しながら礼を言う。
「ありがとう! お前凄いなぁ!」
リンはスカートの土ぼこりを手で払いながら立ち上がる。
「別に、あなたたちを助けたくて助けた訳ではありません。ただ、ミーキアンさまのご命令ですから」
タカトは目をキラキラさせながら続ける。
「でも、お前、奴隷なんだろう! まるで神民兵みたいだな!」
そんな興奮するタカトの背後からエメラルダの声がした。
「そのスピード……あなたの事ね……第三の騎士の門内で恐れられている人食いの少女って……」
へっ! 人食い?
タカトは改めてリンの顔を見た。
青のショートボブ。
少々童顔ではあるが、可愛いさと美しさを両立させた少女である。
まさか、こんな少女が人を食うなんて……ないよね。
だが、立ち上がったリンは、静かに目を閉じていた。
否定しないってことは、本当の事なの……
「人食いの少女とは心外ですね……」
やっとのことでリンはつぶやいた。
その言葉を聞くと、タカトは何度もうなずいた。
やっぱりそうだよね……人食いなんかじゃないよね……
「私は、魔孔雀の双翼が一人、奴隷のリン……お見知りおきを」
よかった! 人食いじゃなくて!
って、
何?
その二つ名は?
なんか、めちゃくちゃやばそうなんですけど……
タカトの側に立つエメラルダは、不敵な笑みを浮かべる。
「やっぱりね……魔人国には、人であって人を狩る少女がいるって聞いていたけど、あなただったのね」
「聖人国で、なんと言われているかは存じておりませんが」
「しかも、奴隷兵とは……てっきり神民兵かと噂されていたんだけどね……」
「私は、ミーキアンさまの奴隷として誇りを持っております」
ミーキアンは第三の騎士の門を守護している。
聖人世界に属する融合国には、当然、この門に相対する騎士の門が存在する。。
融合国の第三の騎士の門を守護する騎士、それはレモノワ=キラーである。
このレモノワが、ミーキアンと騎士の門を通して対峙しているのだ。
そして、このレモノワこそ、小門に隠れ潜んでいたエメラルダに暗殺隊を差し向けた張本人である。
レモノワは、第三の騎士の門のキーストーンを奪うために何度も魔人フィールドへ攻め込んだ。
第三の門内のフィールドは山岳地帯。
しかも高い山々である。
そのせいか、その山の頂には、常に雪が降り積もっていた。
当然、レモノワの聖人国のフィールド内には前線である駐屯地がる。
しかし、魔人国のミーキアンは一向にキーストーンを求めて攻め入ることをしなかった。
駐屯地が、いかに堅牢な要塞であったとしても、攻めてこない敵に対しては全くの無力。
敵方の戦力をそぎ落とすことは、まずもって不可能であった。
だが、レモノワの性格である。
攻めてこないのであれば、こちらから攻め入るのみ。
魔人フィールドにあるキーストーンを探し出して奪い取る。
まぁ、奴は好戦的な性格である。
敵を求めて、魔人国のフィールドをさ迷い歩くのであった。




