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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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青いスライム

 大穴を訪れた最初の来客は、魔ムカデのオオヒャクテだった。


 緑の月の隙間から、ポトリと落ちてきたその体は、ひどく衰弱していて、しばらくの間は動くことすらできなかった。

 ――きっと、よほど空腹だったのだろう。


 スライムは初めての訪問者を心から歓迎した。

 自分の体を差し出せば、この生き物も元気になるに違いないと信じて。


 オオヒャクテは、よろよろとスライムにかじりついた。

 すると、みるみる活力を取り戻し、やがて体をうねらせるほどにまで回復した。


 これで孤独な毎日が終わる――スライムはそう思った。

 しかし、元気になったオオヒャクテは恩を返すどころか、スライムを追い回し、捕まえてはまたその体を食らうのだった。


 オオヒャクテが空腹になるたびに、スライムは必死で逃げ惑う。

 やがてその魔ムカデが眠りにつくと、スライムはひとときの安らぎを得て、緑の月と語らい、水のしずくを飲むしかなかった。

 そんな日々が、長く続いた。


 やがて、二人目の来訪者があった。

 次に落ちてきたのは、大蛇――クロダイショウである。


 穴に入るなり、腹をすかせたクロダイショウはオオヒャクテに襲いかかった。

 クロダイショウがオオヒャクテを追いかけ、オオヒャクテがスライムを追いかける。

 暗い穴の中で、歪んだ追いかけっこが繰り広げられた。


 やがて力尽きたクロダイショウがぐったりと横たわると、スライムはまたも自らの体を差し出した。

 今度こそ友達になれると、信じて。


 だが、回復したクロダイショウもまた、恩を忘れた。

 オオヒャクテと共に、力を合わせてスライムをいたぶり、食らい始めたのだ。


 ――こんなはずではなかった。

 スライムは必死に跳ね回り、逃げ続けるしかなかった。


 気づけば、穴の中はクロダイショウとオオヒャクテで溢れ返っていた。

 増えた群れは互いに争うどころか、結託したようにスライムを食い散らかす。

 その柔らかな体を、飢えのたびにむさぼり、何度も何度も繰り返した。


 それでも、スライムは与え続けた。


 大穴を埋め尽くすほどの魔物たち。

 だが、その命を支えていたのは、ただ一匹の小さなスライムにすぎない。


 この小さな体の中には、一体どれほどの生気とやさしさが蓄えられていたのだろうか――。


 次の訪問者は、これまでとは違っていた。


 クロダイショウやオオヒャクテのような獣ではなく、二本の足で立つ生き物だった。

 その姿は恐怖に引きつり、慌ただしく穴の中へと転がり落ちてきた。


 通常ならば、この魔物の渦巻く大穴に自ら飛び込む愚か者などいない。

 だが、その二足歩行の生き物は何かに追われているのか、壁にぴたりと張りつき、震えながら上を見上げていた。

 まとわりつくクロダイショウやオオヒャクテさえも気にかけず、ただ息を潜めて。


 黒い影が、穴の口を塞ぐように覆いかぶさった。

 闇の中で、赤い二つの眼がぎらりと光る。

 生き物のものとは思えぬ冷たさと飢えを孕んだ光。


 口角から吐き出された白い息は、熱を帯び、岩肌をじりじりと焼くように照らした。


 二足歩行の生き物は小さく悲鳴を上げ、じりじりと後ずさる。


 ――あの目は、危険……近づいちゃダメ。


 スライムは直感し、岩の隙間へと身を滑り込ませた。

 クロダイショウとオオヒャクテが、恐怖に駆られるように群がり、その身を覆い隠していく。


 次の瞬間――。


 「ドンッ!」

 大穴を震わせる衝撃音とともに、赤い影が降り立った。


 直後、耳を裂く絶叫。

 生き物の断末魔が反響し、すぐに――肉が引き裂かれる、湿った音。

 骨が砕け、臓腑が潰れる、鈍く重い音。

 むさぼる舌が肉片を啜る、ねっとりとした音。


 闇の中で何が行われているのか、目に映らぬ分だけ、その音がすべてを物語っていた。


 やがて、穴全体を駆け回る荒々しい気配。

 怯えたクロダイショウとオオヒャクテの群れが、のたうち回り、鳴き声をあげる。

 それらさえも、次々と引き裂かれていく音に呑み込まれていった。


 そして――。


 「ゲェェ……ッ」

 何かを大量に吐き散らす音が響き渡る。

 それは血か、骨か、臓物か……。

 しばし、ぐちゃりとした音が続き――やがて、静寂が落ちた。


 スライムは、そっと塊へと戻った。


 そこには、赤黒い血だまりが広がっていた。

 減り果てた群れの合間に、ばらばらに引き裂かれた二足歩行の亡骸。

 その頭部だけが転がり、空虚な瞳で、まるでスライムを責めるように見つめていた。


 スライムは、そこで悟った。

 誰かがこの孤独を癒しに来てくれる――などという夢は、もう終わったのだと。


 いつか誰かが笑って声をかけてくれる。

 そんな小さな願いさえ、もう忘れてしまった。


 あきらめたスライムは、もはや動くことさえやめていた。

 月の垂らす雫の下で、ただ小さく身を固めるだけ。

 オオヒャクテが牙を立てても、クロダイショウが噛み千切ろうとしても――声をあげることはなかった。


 幾度も月は欠け、満ち、また欠け――やがて一年が経った。


 相変わらず、オオヒャクテやクロダイショウにかじられる日々は続いている。

 だが最近、妙に数が減ったような気がしていた。


 ……時折、穴の上から大きな網が降りてきて、群れをすくい上げていく。

 空へ引き上げられるクロダイショウやオオヒャクテの群れ。

 やがて、ぐちゃりと肉を噛み砕く咀嚼音が遠くの空から聞こえてきた。


 なんとなく顔を上げて、穴の外を見た。

 そこには――あの赤い目とは異なる、緑の眼が、じっと穴の底を覗き込んでいた。


 赤い目は荒神の証。

 生気を失った神が爆ぜようとする、破滅の前触れ。


 対して、緑の眼は魔物の証。

 穴を覗き込む魔物は、群れを大きな網ですくい取り、そのまま貪り食らう。

 やがて満腹すると、噛み砕かれた亡骸を残飯のように穴へ吐き捨てていった。


 やがて数が減れば、しばらくは獲物が増えるのを待つ。

 そして、群れが溢れるほどに育つと、またすくい取って喰らう。


 ただ、それだけ。

 ただ、その繰り返し。


 けれども、そんな循環すら、もはやスライムにとっては意味を持たなかった。

 何を見ても、何をされても。

 ただ、心はとうに死んでいたのだから。


 いつの間にか、涙を流すことすら忘れていた。

 願いも、希望も、声も――すべて、暗闇に溶けてしまった。


 ――誰かと……お話したかったな……

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