裏切り(4)
「ハトネン! アリューシャの居場所を教えろ!」
ディシウスの叫び声がハトネンの耳に届いた。
まさか、それが理由?
俺を裏切った理由はそれだけ?
俺って嫌われてない! ヨッシャァァ!
安堵の表情を浮かべたハトネンは、笑った。
「神に仕える身ゆえ、神のことが心配になったか!」
ソフィアの義理堅い性格からすれば分からないことはない。
だが、ディシウスはなぜ、一緒に突っ込んできているのだ。
まぁ、雲のように気まぐれなやつだ。そんな奴の考えなどわかるはずもない。
もう、どうでもいいわ! あんな奴ら!
ハトネンは命令する。
「ソフィア! この場においてお前の神民の刻印をはく奪する! もう、お前は神民でも何でもないただの裏切りもの! ものども! あ奴らを血祭りにあげてしまえ!」
「ハトネン様! 一之祐はいかがいたしましょう?」
「一之祐は俺が何とかする!」
ハトネンは神輿から飛び降りると一之祐のもとにかけていく。
ここは魔人フィールド。騎士の盾が使えるハトネンは負けることがないのだ。
マリアナが来るまで、一之祐を押さえておけばいいだけ。
魔物など食うことしか考えていないから、気づいたら一之祐はただの肉片になっているかもしれない。
魔物たちに任せるよりも、自分が動いた方が、一之祐を確実に自分専用の椅子にできそうである。
それに対して、ソフィアとディシウス。
アイツらなら、死んでも構わない。
と言うか、死ね!
俺に歯向かうということがどうい事か思い知らせてやる。
骨のひとかけらも残らず、食われてしまえ! ボケがぁ!
魔物たちの部隊は、ハトネンの言葉を聞くと、またまた、仕方なしに頭を返し、ため息をつきながらディシウスとソフィアに向けて走り出した。
あっという間に魔物の大群に囲まれるディシウスとソフィア。
魔物たちをにらみながらディシウスは思う。
これで、マリアナは逃げてくれたことだろう。
そして、一之祐に向かっていた魔物たちもこちらに引き戻した。
アイツも、引いていく魔物の群れを目にして今頃はキョトンとして立ち尽くしているに違いない。
その様子を思うと、可笑しくなる。
ただ、アイツの驚く表情が見れないのが少々癪には触るが、まぁいい。憂さ晴らしはこいつらでするとしよう。
そう思うディシウスは懸命に大剣を振るい魔物どもをなぎはらった。
ディシウスにとっては、この魔物の群れなど、ネコの群れに等しい。
大剣の一振り一振りに、魔物たちが水しぶきのように飛んでいく。
クソが! クソが! クソが!
人間であるアイツの思う通りにしてやるものか!
大体、アイツには関係ない問題なのだ。
それを面白がって首を突っ込みやがって。
ざまぁみさらせ! クソ野郎が!
そして、今のうちに、とっとと逃げろ!
逃げてくれ……
俺たちのために死ぬことはないんだ……
逃げてくれ……
ディシウスにとって、周りを囲む魔物たちの力は大したことはない。
だが、やはり数が多い。
自分に飛び来る魔物をさばくだけで手いっぱいであった。
それに対してソフィアは蝶の魔人。
羽を広げ、魔人の群れから上空へと逃げる。
だが、空にもまた、魔物たち。
あっという間に、ソフィアの片方の羽が引きちぎられた。
地に落ちるソフィア。
そのソフィアに魔物たちが、一斉に襲う。




