裏切り(3)
ディシウスが、そんなソフィアを庇うかのように重い口を開いた。
「おれが、今からハトネンを締め上げてはかせてくる!」
ディシウスは、今、初めて気がついたのだ。
一之祐の襲撃のおかげで、ハトネンの本陣は手薄になっているのだろう。
そのせいで、自分たちは、こうしてマリアナのもとにすんなりとたどり着き、話をする時間が持てたのだ。
これが、もし、一之祐の陽動がなければ、すぐさまハトネンに見つかり、マリアナから引き離されたことだろう。
そうすれば、マリアナを止めることは叶わない。
まして、マリアナをどこかに逃がすなどと言うことは絶対にかなわないのである。
おそらく、一之祐はそれを見越したうえで、エイの場所を聞いたのだ。
二人が、マリアナを説得する時間を作るために、自らにハトネンの目を向けさせたのである。
そう考えると、癪に障るやつである。
全てを見越したうえで、それを語らず、己が身を危険にさらすのか。
まして、その相手が敵である魔人だ。
ただ、剣を交えた間柄。
そんな義理は無いはずである。
くそっ! やはりどう考えても癪に障る。
これでは一之祐にまた借りができてしまうではないか。
ならば、今度は、俺の方に引き寄せてやる。
お前などの力は借りん!
立ち上がるディシウスの体から、怒りともとれる殺気が立ち上っている。
マリアナは、そんなディシウスを見上げた。
「それでは、あなたたちがハトネンと敵対することになるのですよ」
ディシウスを見上げるソフィアもまた、覚悟を決めた。
「かまいません。これ以上神様が苦しむ姿をみるのは、神の気を払う者としては辛いのです」
ハトネンは、突然、部隊後方に現れた一之祐に魔物たちをけしかけ総攻撃をかけていた。
魔人フィールド内のため一之祐は騎士の盾も騎士スキルも発動しない。
そして、魔装騎兵でない一之祐は己が剣一本で戦うだけだ。
だが、その剣は白竜の牙を権蔵が鍛え上げた一品。
魔物たちを斬りまくっても、いっこうに切れ味がまったく落ちない。
「くそ、いまいましい。あの脳筋バカは、体力だけは無限かよ」
アイツが絡むと、大体ろくなことがおきない。
疑念のダイスの確立がずれるのも、大方、アイツの存在のせいなのだ。
なんで、あの一之祐が第七の騎士で、俺の相手なんだよ。
アイツじゃ無ければ、俺はもっとスマートに戦うことができていたというものなのに。
あぁ、アイツを早く、俺の足元にひれ伏せたい。
そうだ! あいつを俺専用の椅子にしてやろう。
どこに行くにも、首輪をつけて、俺の専属の椅子として連れまわすのだ!
そして、疲れたらあいつを四つん這いにさせて、その背に座るのである。
グッドアイデぃ~ぁ!
って、まだか、マリアナは! 遅い! 遅い! 遅すぎる!
早くしないと、一之祐が死んでまうだろうが!
一之祐へと向きを変えていたハトネンは、いまや後方となった聖人国の駐屯地の方向へと振り返る。
「マリアナはまだか!」
しかし、そこにはマリアナではなく、二人の魔人が、ハトネン本隊の後方に突撃をかけていた。
「裏切りです!」
後方より、側付きの魔人が急ぎ走りて状況をつたえた。
「ソフィア様が、ディシウスとともに、この本陣にむけて突っ込んできます」
「な・ん・だ・と!」
意味が分からぬハトネン。
どうして、ソフィアとディシウスが俺を襲ってくるのだ?
マリアナなら、分からんことはない。
なぜなら、妹のアリューシャを人質に取って、こき使ったのだ。
しかし、なぜ、あの二人?
お前ら! 関係ないだろ!
えぇぇ! なんでなのよ!
俺、何かしたぁ?
俺って、そんなに嫌われてるのぉぉぉ!




