救える命は何人だ?(3)
「お前、アリューシャという神はどうする気なんだ?」
一之祐は、それとなくディシウスに尋ねた。
「俺には関係ない……」
――ほう、やはり。
大方、荒神の気を払うと、そばの女魔人の命がなくなるとかそんなとこなのだろう。
そうであれば、この男、女のために一人で戦う覚悟を決めたというのか。
面白い。
だが、この女魔人は、二人の神を助けたい。
ということは、命を懸けて妹のアリューシャという神を救いたいのだろう。
最悪、この男魔人が救えるのは、3人の女のうち一人の女だけ。
むごい選択だが、この男には、最初から答えは出ているのか……
だが、ここで、マリアナを止めれば二人の女を救うことができるかもしれない。
だからこそ、聖人国のキーストーンか……
アホだな……だが、嫌いではない。
ディシウスが怒鳴る。
「話したから、俺たちはもう行くぞ!」
「どうするつもりだ」
一之祐は尋ねた。
ディシウスは一瞬ためらった。
「マリアナと言う神に力を使うのをやめてもらう」
その答えに一之祐は馬鹿にするかのように笑った。
「お前、そりゃ無理だろ」
ディシウスは言葉に詰まる。
確かに一之祐の言う通りなのだ。
マリアナに神の恩恵を使うなと頼んでも無理な話かもしれない。
だが、今はそれしかないのだ。
一之祐は続ける。
「ならアリューシャはどうする。助けるとでも嘘をつくのか……」
もう、何も答えられないディシウス。
一之祐に腹の中を見透かされているという事よりも、マリアナにどういえばいいのか本当に分からないのだ。
ただ、アリューシャを救うと言って、本当にアリューシャを救うとなると、ソフィアが死ぬのである。
それが嫌だから、今、自分はここにいるのだ。
なら、一之祐が言うように、嘘をついて、マリアナを鎮めるのも一考だ。
それも仕方ないかもしれない。
今、マリアナに荒神になられれば、たちまちソフィアはその気を払わされることだろう。
それに対して、アリューシャなら、頑張ったけれども、間に合わなかったとごまかせるかもしれない。
こんな卑屈な考えを巡らせるディシウスは、まるで自分がハトネンになったような気がした。
こざかしい考えを巡らせるハトネンとバカにしていたのにである。
本当に嫌になる。
だが、どうしようもないのだ……
こんな時、ハトネンの持つ疑念のダイスでもあれば、どれが一番可能性が高い未来なのか分かるというものなのに。
ディシウスは、少々ハトネンがうらやましいと思ったが、そんな自分をすぐさま嫌悪した。
何も答えぬディシウスを見て、一之祐がため息をついた。
「はぁ、なら、魔人国のキーストーンはどこにある。教えろ」
ディシウスとソフィアは突然の提案に、唖然として一之祐をにらんだ。
この男は何を言っているのだ。
どさくさに紛れて、魔人国のキーストーンを狙うつもりなのか。
当然、口を紡ぐソフィア。
答えるはずもなかった。
「お前たちのキーストーンを俺が奪えばこの戦いは終了だ」
一之祐は頭をかきながら、解決方法を提案した。
確かにその方法であれば、この第七フィールドの戦争は終結するかもしれない。
ならば、マリアナも闘う必要がなくなるというものだ。
確かに、一理ある。
一理あるが、そんな提案を飲めるはずがなかった。
だいたい、ソフィアはハトネンの神民魔人である。
それを教えるということは信義に反する。
そして、ディシウスも同じことである。
ディシウスがここでしゃべれば、ソフィアの立場が危ういのだ。
そんな事、教えられるわけがない。
大体、そんなことをしなくても、いい方法があるではないか。
「なら、おまえの聖人国のキーストーンを俺たちに渡しても同じことだろうが!」
確かにそうである。
魔人国のキーストーンだろうが、聖人国のキーストーンだろうが、相手に渡れば同じことである。
一之祐は馬鹿にしたように返した。
「残念だな、俺にはその女を救う義理がない!」
――ぐっ!
腹の中を見透かされたディシウスは、言葉に詰まった。




