雌クジャク(3)
リンは笑いながら説明した。
「まぁ、下水処理と言っても、地下道に住むスライム食わせるだけだけですけど」
魔人世界の下水処理は、地下道に住まうスライムに食わせるだけ。
だが、この世界のスライムとは、厄介な生き物なのだ。
読者の皆さんはタマのイメージがあるので可愛いとお思いかもしれない。
だが、違う。
単純な構造の魔物であるスライムは、とにかく何でも食う。
手あたりしだいになんでも取り込むのである。
それ故に厄介な奴なのだ。
要は、体に触れる物はなんでも取り込む。
生気が残留していれば、魔物だろうが、人間だろうが、ゴミだろうが何でもいいのだ。
下手に手を出すと、魔物もまた、簡単に消化されてしまう。
それ故に、魔物たちも、スライムには手を出さない。
そもそも、ぶよぶよとした体。食うところがないのである。
とにかく、取り込んだもので、そのぶよぶよとした体を大きくしていくことだけしか能がないやつがスライムなのだ。
知能などと言うものが存在しているかどうかも分からない下等種。
だが、思考が単純ゆえに、制御するのもしやすいのである。
スライムは『妖精の蜜』と言うものを好む。
『妖精の蜜』と言うのは、妖精達が、植物の生気を長い時間かけて集め濃縮した蜜のようなモノである。
聖人世界でも、この生気の濃縮物である『妖精の蜜』は人気なのだ。
男に使えば性欲アップで発情し、目の前の女に虜となる惚れ薬。
女に使えば、排卵が誘発され妊娠確率が高まる子宝の薬として重宝されている。
聖人世界、魔人世界の両方で必要とされる妖精の蜜は、たびたび、争いの原因になることがあった。
その蜜を定期的に、地下道に滴下してやれば、スライムどもは、地下道から出てくることはまずないのだ。
だから、魔人世界では、不要な物は、地下道へと投げ込んで処理をする。
ただ、スライムの特有の生臭い匂いが、その地下道の隙間から昇ってくるのが問題なのだが、慣れてしまえば、さほど気になるものではない。
住めば都と言うやつで、匂いなんぞ3秒もあれば順応するものだ。
スライムと言う言葉を聞いたタカトは、思わず右の二の腕に巻き付いているタマを、匂った。
しかし、タマからは、生臭い匂いはしない。
もしかして、タカトに引っ付いているせいなのか?
タカトがお風呂で背中を洗う時に、ナイロンタオルのようにタマの体を引っ張って使っているせいなのだろうか?
それとも、タマ自身、女の子のように常に身だしなみに気を付けているのかもしれない。
というか、タマって、知能あるよね。
タカトの言っていたこと、理解している節あるよね。
ということは、タマもまた、普通のスライムではないということか。




