雌クジャク(2)
門を通り過ぎながらタカトは、その壁を押してみた。
バランスの悪さからグラグラすると思っていたのだが、意外としっかり立っている。
よくよく見ると、この城、使っている石がとにかくデカい。
人間ではとても運ぶことができそうにないような石が、そこかしこに使われている。
これなら、簡単に壊れることはなさそうだ。
まあ、よく考えれば、大型の魔物ども使役して建築するのだ。
人間よりも重量のある建材をふんだんに使っていてもおかしくはない。
リンに招かれ、タカトたちは城の中へと入った。
ひんやりと洞窟のような冷気が漂っている。
城の中は、その外側同様に、石がむき出しのがらんとした空洞であった。
そして、その真ん中に、奥へと通じる通路ができていた。
その通路は、通り抜けた空洞とは異なり、少々狭い。
あの空洞が、一体何なのかと思うぐらいに狭い。
タカトは肩をこすりながら、リンに従い、その通路をまっすぐに歩く。
どうやら通路、防御のためと言うわけではなさそうだ。
石を積んでいった結果、狭くなってしまったという感じである。
その証拠に、道の幅が歩くたびに広くなったり狭くなったりといちいち変わるのだ。
――なんの臭いだ?
タカトの鼻を、先ほどからかすめるにおい。
少々、生臭い匂いである。
狭い通路に入ったことにより、空気が圧縮され、その匂いがハッキリと分かる。
動物園のような匂いと言ったら想像しやすいだろうか。
これは、魔物特有の臭いなのだろうか。
魔物が食い散らかしたエサが腐敗した匂いなのだろうか?
それとも、排泄物の臭いなのか?
だが、先ほどの町では、魔人たちは、人間を料理して食っていた。
と言うことは生で食うということは、それほど多くはないのだろう。
そう言われてみれば、魔人たちは服を着ていることが多い。
人を真似て、人に近い生活をしているのかもしれない。
ならば、排せつも、トイレでするのだろうか。
なら、この生臭い匂いは何なんだろう……
いろいろと考えるタカト。
「この変な匂い何?」
考えても分からないタカトは、ついに好奇心に負けリンに尋ねた。
リンはドキッとして、自分の二の腕をかいだ。
「いやいや、お前じゃなくて……」
タカトが、笑いながら突っ込んだ。
慌ててビン子が手を振った。
「私じゃないわよ! おならしたのタカトじゃないの!」
タカトは白い目でビン子を見つめる。
コイツ……すかしっ屁しやがったな。
「いや、屁じゃなくて、なんか、生臭い匂いがするんだけど……」
ビン子が自分の二の腕を匂った。
「もういいからそのボケ!」
優しいタカト君、ビン子に一応、突っ込んであげた。
「あぁ、この臭いですか……」
リンは、やっとタカトの言わんとしたことを理解した。
「下水の処理の臭いですよ」
そして、地下を指さす。
何! 魔人世界には下水処理まであるのか!
タカトは少々ビックリした。
城の構造から考えて、人間の文化を真似しようとしていることは分かるが、兵器の国の建築文化レベルどころか通常の国の建築レベルにも達していないのはすぐわかった。
だから、下水処理を備えているなどとは思っていなかったのだ。




