半魔の犬(1)
エメラルダの表情が険しくなった。
暗殺者二人に、捕らえられ、身動きができないタカトとビン子。
気丈夫のエメラルダは咄嗟に黄金弓をネコミミのオッサンに向けて威嚇する。
しかし、黄金弓につがえられている矢は1本。
救えるのはタカトとビン子のいずれかである。
そんなことは、先刻承知のオッサンは、黄金の矢にビビることなく、平然と提案した
。
「黄金弓を捨てて、このカエルたちに食べられな!」
ネコミミオッサンはいやらしい笑みを浮かべていた。
自らの手でエメラルダを解体することはできないが、カエルに食べられる美女という見世物も見ものである。
だが、エメラルダは動かない。
光の矢じりの先が、ネコミミオッサンの眉間を指し続けていた。
――フン!
再度、ネコミミオッサンが叫んだ
「もう一度言う! 黄金弓を捨てろ! そして、カエルに食われろ! そうすれば、この二人は解放してやる! 俺たちの目的はお前なんだからな!」
エメラルダの目が鋭くネコミミオッサンをにらみつけている。
おそらくあの男の目、嘘だ。
エメラルダが、カエルにくわれたとしても、おそらくタカトとビン子を開放するつもりはないのだろう。
と言うことは、二人は殺される。
かといって、ココで、どちらか一人を救ったとしても、残り一人は、その瞬間に殺される。
やはり、それは、許せない。
助けるのなら二人同時だ。
でも、どうすればいいのか分からない。
仕方なく、エメラルダがゆっくりと弓を降ろし、大岩の上に置いた。
両手を肩の上にあげ、立ち上がる。
だが、そのエメラルダの目は、今だ、まっすぐオッサンをにらみつけていた。
カエルたちの緑の目が、きょろりきょろりとエメラルダを見つめる。
警戒しながらカエルたちが近づいてくる。
エメラルダを取り囲む輪が次第に小さくなっていく。
背中に腕を回されて身動きが取れないタカトは、その様子を悔しそうに見つめていた。
「俺の巨乳がカエルに!」
「アンタのと違うから!」
ビン子はすかさず突っ込んだ。
しかし、ビン子もまた、暗殺者に掴まれて動けない。
自分たちが、暗殺者につかまっているばかりにエメラルダが動けない。
せめてタカトだけでも動ければ、その手に持つ小剣で何とかできるかもしれない。
淡い期待を持つものの、足をばたつかせてあがいているタカトを見ると、期待外れのようである。
まぁ、仮に、タカトが自由になったとしても、生身のヨークでも歯がたたなかった暗殺者たちを、ずぶの素人のタカトが何とかできるとも思えない。
――誰か助けて!
ビン子は願った。
エメラルダを取り囲むカエルの輪は、どんどんと小さくなっていく。
――誰でもいいから助けて!
ビン子の手に力が入る。
そう、神の盾だ!
神の盾を使おうと、無意識の中に現れる金髪の女神を懸命に探す。
――お願い力を貸して!
いまだ、ビン子は、自身の力で神の盾を発動させることはできていなかった。
しかし、ビン子の意識の中に金髪の女神は見つからない。




