隣あう二つの死(4)
ビィィィィイィイイイィィィ!
魔血ユニットが最後の警告音を上げた。
ついに動いた。
しかし、動いたのはヨークではなかった。
それを合図にするかのように、ネコミミのオッサンたちが、一瞬早く、ヨークに向かって突進した。
咄嗟に、ヨークは、足を出す。
暗殺者を通すまいと、懸命に体を動かした。
だが、瀕死のヨークの体は少し動くだけで精いっぱい。
その横を、さっそうと駆け抜けていく暗殺者たち。
その影を無念そうに見つめながらヨークの体が、ゆっくりと倒れていく。
ナイフを己が胸に突き刺すためだけに残していた、力。
その力も、とっさに足を動かすことに使ってしまった。
もう動かない……
もう、何も見えない……
何も聞こえない……
――今、いくよ……メルア……
ついに、ヨークの体が、地面に落ちた。
――ダメ……ヨーク……あなたはまだ……
消えゆくヨークの意識の中、聞き覚えのある女の声が、かすかに聞こえた気がした。
ビィィィィイィイイイィィィ
魔血ユニットの警告音だけが、洞窟の中に響いていた。
タカトはエメラルダの手を引き懸命に走っていた。
洞窟内の岩肌は、しみ出す地下水でしっとりと濡れ、滑りやすくなっていた。
エメラルダの足がもつれた。
咄嗟にタカトがエメラルダの手を引っ張り、転倒するのを何とか防いだ。
手を引かれるエメラルダは、岩肌に膝をつき、肩で息をしていた。
先ほど、ネコミミのオッサンに切られた傷から入った毒が、全身に回ってきたのであろう。
「大丈夫?」
そんなエメラルダの様子を心配したのか、ビン子が声をかけた。
「えぇ、大丈夫よ」
エメラルダは、心配をかけまいと、笑顔を作る。
タカトの手を引き、懸命に体を起こそうとするが、力が入らない。
「もしかして、エメラルダの姉ちゃん、毒に侵されたのか?」
タカトは気づいた。
先ほどまで元気だったのにもかかわらず、ネコミミのオッサンと遭遇してから、急に体調が悪化した。
ここまで急激な変化は毒以外に考えられない。
しかし、今手元に毒消しなんて持っていない。
だが、ここで動かずにいれば、ヨークの手をすり抜けた暗殺者たちの追手が迫るかもしれない。
一刻も早く、より遠くに逃げたい。
タカトは、膝をつき、エメラルダに背を向けた。
「エメラルダの姉ちゃん、俺の背中にのって!」
タカトは、エメラルダを背負って逃げようとした。
ここで、立ち往生していても、状況は悪くなるだけ、ならば、背負ってでも歩き続ける方がまだましだ。
エメラルダは、小さくうなずくと、タカトの背に覆いかぶさった。
先ほどまで真剣だったタカトの目が、いやらしく歪んだ。
――こ! これはなんとイイ感じ!
そう、エメラルダの巨乳が、タカトの背中に押し付けられていたのである。




