続・ショッピングバトル!(5)
「ここは通さん!」
カルロスの気迫が、暗殺者たちの気勢をそいだ。
しかし、暗殺者も相当の手練れ。
瞬時に体制を立て直すと、無音の内に、皆が一斉にカルロスめがけてとびかかる。
だが、そんなことに臆するカルロスではない。
とびかかる暗殺者の顔をつかみ取ると、そのまま地面にたたき込む。
返す腕で、数人の体を一気に薙ぎ払った。
しかし、暗殺者も、やられっぱなしと言うわけではない。
懐に潜り込んだ数本の刃が、カルロスのわき腹を突き刺していた。
だが、今のカルロスにとって、そんなことは、関係ない。
――突き刺すナイフがなんぼのもんじゃい!
ナイフを強く突き立てる二人の暗殺者の背中に肘を激しく打ち付ける。
その暗殺者の体が地面によって跳ね返る。
「ふん! 絶対に通さん!」
カルロスは、口からこぼれる血反吐を手で拭い、鬼の形相で吠え叫ぶ。
しかし、先ほどから、なぜか膝がいう事を聞かぬ。
右ひざが、カルロスの重さに耐えかねて、ついに屈すると、カルロスの体がすとんとまっすぐ地に落ちた。
――これは……毒か……
力が入らぬ手のひらがプルプルと震える。
全身から力が抜けていく。
先ほど、腹に突き刺さったナイフの先に、毒が塗られていたのだった。
さすがに、鬼教官のカルロスも毒には勝てない。
「うぉぉぉぉ!」
気合を入れるも、体は動かぬ。
その様子をちらりと見るネコミミのオッサン。
しかし、カルロスにとどめを刺すの時間が惜しいのか、すぐさま、エメラルダの後を追って駆け出した。
膝をつくカルロスの横を、バカにするかのように、次々と暗殺者たちが駆け抜ける。
「ぐぬぅぅ」
何もできぬカルロスが無念の表情を浮かべ見送った。
――エメラルダ様、早くお逃げください……
魔の国へ続く洞穴を走るタカトとビン子とエメラルダ。
コチラの道は、聖人世界の融合国に通じる道と異なりいまだ整備されていなかった。
普通の人間が魔人世界に行くことなどまずありはしない。
それどころか、魔人世界から腹をすかせた魔物などが入ってくるかもしれないのだ。そんな魔物たちのためにわざわざ道の整備などするバカはいない。
ということで、そのままの状態で放置され続けていたのだ。
そのため、タカトたちが走る道はいたるところでごつごつとした岩肌がむき出しになっていた。
だが、その岩肌は何十年、いや何百年もの間、天井から滴り落ちてきたたしずくによってめちゃくちゃ滑りやすくなっていたのである。
あっ!
ということで案の定、ビン子ちゃんが足を滑らせた。
我らがドジっ子アイドルビン子ちゃん! さすが!
ってことで、すってころりん、スッとントン!
勢いよく尻もちをついたビン子は、そのまま岩肌の上を滑っていく。
それはまるでつるつると回転するカーリングストーン!
なすすべがないビン子は叫び声をあげていた。
「ウォー! ウォー!」
おっさんか! アイドルじゃないのかよ!
でも当然ながら、叫んだだけでは止まらない。
カーリングの様にビン子の前にはスイパーなど誰一人としていないのだ。
あっ! ちなみに、カーリングで「ウォー」は掃くのをやめろということだそうだ。そして、試合でよく耳にする「ヤップ」は氷を掃いて滑りやすくすることなんだって。
止まるどころかさらにスピードを上げるビン子の体。
滑り行く先はストーンを投げ入れて得点を争うハウスではなく、ストーンと落ちて人生を失ってしまいそうなヤップ海溝なみの深い谷。
その深さ……ハウスどころか望み薄……
もう、万事休す……といったところ……
だが、ストーンの様に重かったビン子の体が急に軽くなった。
それは空に舞う鳥の羽のように軽やか!
――私って、やせたかしら?
って、今はそんな事を思っている場合ではなかった。
というのも、岩肌から飛び出したビン子の体は、何もない暗い空間に浮いていたのである。
あとは物理法則にしたがって崖の下へと落ちるだけ。
もう、簡単なお仕事です!
――って、死んじゃうじゃないのぉぉぉぉぉ!
そんなビン子の手を何か温かいものがつかみ取った。
瞬間、ビン子の体をガクンという大きな衝撃が襲ったかと思うと、振り子のように揺れもどり始めた。
岩肌にぶつかるビン子の体。
その衝撃で崩れた大きな岩が暗い空間へと落ちていく。
遅れること数秒、ポチャンと水を打つ音だけが戻ってきた。
どうやらこの下には地下水が流れる川があるようだ。
って、音が返ってくるまで時間がありすぎるんですけど!
というか、こんな暗い川に落ちようものなら、洞窟内のどこに流されるか分からないじゃないの!
まあ、川に落ちたら、未来永劫、この洞穴の中をぐるぐると流され続けることになるだろう。
下を眺めるビン子の額から冷や汗がにじみ出ていた。
話をほんの数秒戻そう。
ビン子がこけた瞬間、タカトは反射的に体を翻した。
「ビン子!」
そして、離れゆくビン子に向かってへッドスライディング!
水しぶきを上げながら滑っていく。
崖から飛び出したビン子の手をしっかりと握りしめるタカト。
間一髪!
だが、滑り行くタカトの体も止まらない。
タカトは反対の手でネールハンマーを取り出すと、その釘抜きの部分を岩肌に思いっきり打ち付けた。
ガクンという大きな衝撃とともにタカトの腕が限界まで伸びきると、やっとのことでその滑りを止めたのであった。
――なんか、こいつ重くなってねぇ?
などと、思っていたことは内緒である。




