第334話
コウスケの唇が、狙いを定めて一気に降下した。
ビシっ!
その音共にタカトの頭が直角に折れた。
一方、コウスケの唇は、汚い床をぺろぺろとなめていた。
「何やってるのよ!」
ビン子のハリセンが、ゴルフのスウィングさながら地面に転がるタカトの頭を撃ち抜いていた。
そのフォームは、まさに一流の女子ゴルファーのように、美しく回転する。
もしこのハリセンが、仮にドライバーであれば、その飛距離はゆうに400ヤードは超えたであろう。おしい! 実におしい! 長有望な女子ゴルファーだったのに……
一方、間一髪でコウスケの最悪の一撃は回避できたタカト君であったが、どうやら、当たり所が悪かったようで、白目をむいて口から泡を吹いていた。
もしかしたら、首でも折れたのであろうか。
「きゃぁ! タカト大丈夫!」
駆けつけたアルテラが、コウスケを跳ね除けると、タカトを勢い良く抱き起し、必死に揺らした。
その動きに合わせて、力ないタカトの首が、前後する。
なんだか、ますます首の角度がおかしくなっているよな気がするのですが、気のせいでしょうか?
「もしかして、ソフィアにやられたの……」
アルテラはタカトを抱きしめた。
「い……いや……ア……あいつに……」
タカトの手がゆっくりとビン子を指さそうとしていた。
まずい! ここでアルテラまで、敵に回すと厄介だ。
咄嗟に、ビン子が膝まづいた。
「タカトおにいちゃん! 大丈夫!」
更にタカトの肩を激しくゆすった。
脳が激しく揺れたタカトは、口からますます泡を噴き出した。
「えっ? 何? 何を言ったの?」
タカトが言った言葉がよく聞き取れなかった、アルテラが、更に追い打ちをかけるかのように、激しく揺らす。
タカト、完全に沈黙。
人魔収容所の外はすでに夕方であった。
タカトたちは人魔チェックを受けたのち、陰性と確認され、アルテラの命令のもと、施設外へと退出させられた。
夕日の中をカルロスに背負われるタカト。
その横をビン子がついて歩いている。
そのビン子が、振り向きながら手を振った。
その手を振る先には、コウスケとピンクのオッサンが一緒に手を振っていた。
離れ行くビン子たちを見送りながらピンクのオッサンが、今だ別れを惜しむかのように懸命に手を振るコウスケに語り掛けた。
「さぁ、コウズケ君、ゼレスディーノさまのところに帰りましょ!」
「ハイ! 師匠!」
元気に答えるコウスケの顔は、朗らかに微笑んでいた。
何か吹っ切れたようである。
しかし、一体……なんの師匠なのでしょうかね、本当に……と言うか、ピンクのオッサンは、セレスティーノと関係ないのではないでしょうか?




