第298話
「あと少しですぜ! お嬢!」
「一気にいけ!」
真音子が、ビン子と肉塊の境に剣を突き刺し、切り開く。
ビン子の目がうっすらと開く……
「だ……誰?」
ビン子の目の前には魔物のような顔をした男と、腸の仮面をかぶった女が立っていた。その二人が、今懸命に自分を助けようとしてくれているのだ。
ビン子を離すまいと3000号の肉塊が伸びてくる。
イサクは、イッキに引き抜こうと、さらに力を込めた。
「い・いたいっっっ!」
綱引きの綱の様に両側から引っ張られるビン子の体が悲鳴を上げた。しかし、タカトと離れたビン子の体では、神の盾は発動しないのか?
この下種が!
真音子が、所かまわず剣を突き刺す。
3000号が嫌がるように悲鳴を上げて身をよじる。
次の瞬間、3000号の上の十字架の女の体が金色に光り輝いた。
これは! 髪の恩恵!
真音子は咄嗟に飛びのいた。
そんな真音子に向かって、十字架の女から黄金の光球が弾丸のように放たれた。
「お嬢!」
イサクは、ビン子の手を放し、真音子を自分の体で覆い尽くした。
その光球を見るビン子
「だめぇ!」
ビン子の髪が金色に輝く。
ビン子の体から、金色の光が広がった。
そう、だがそれは一瞬の出来事であった。
一瞬光った光が、大きく広がる。
それは弾けるかのように、激しい速さで周囲へと広がった。
光球が真音子たちを襲う。
だが、ビン子から弾けた光の壁が、その光球を押しやった。
光と光がせめぎあい、光の火花を散らした。
光球の軌道が上空へとそれた。
しかし、少し、遅かった。
光球しっぽが、真音子とイサクをかすめたのだ。
真音子はビン子へと手を伸ばす。
光の壁により、3000号の肉塊を押しのけたビン子の体が、ゆっくりと弧を描き地に落ちていく。
そのビン子の向こうには、光の壁に押しこまれることに抵抗する3000号の姿があった。
「ビン子さん!」
真音子の声と共に、イサクと真音子の姿が消えた。
そう、目の前から姿、スッと消えたのだ。
まるで、電気が消えるかのように突然に二人の姿が消えていた。
床に倒れ込むビン子は消えゆく意識の中で、それを見た。
すでに、ビン子の髪の色は、いつも通りの黒に戻っていた。
だが、ビン子の目の色は赤黒く染まり始めていた。




