貯蔵室(2)
コウスケは、そんなタカトを放っておく。タカトのバカはいつものことだ。
「ビン子さん、名前を書かないといけないので、正しい名前を教えてください」
「えっ! 私、ビン子はビン子よ?」
「ビン子さんのビンはどんな字ですか?」
「えっ……タカトがつけたらから、よく知らないけど、貧乏神のビンじゃない?」
「そんな、それはあんまりですよ……」
コウスケはタカトをにらんだ。
「タカト! お前、もう少し女性をいたわるという気持ちがないのか! よりによって貧乏神のビンとは! ビン子さんに失礼だぞ!」
タカトは勢いよく立ち上がった。
腕を腰に当て、偉そうに反り返る。
「ばぁぁぁかかぁ! ビン子のビンは貧乏神のビンではないわ!」
「えっ!」
コウスケは驚いた。
「えっ!」
ビン子も驚いた。
というか、あなた自身の名前でしょが……
「もう一度言う! お前は、ばぁぁぁヵかあぁぁぁかぁぁぁ!」
タカトの目が凄い偉そうだ。殴りたくなるほど偉そうだ。
「ビン子のビンは貧乏のビンではない! 『嬪』と言う字のヒンなのだ。そう、嬪子は、位が高い女の子と言う意味だ! そして、どこぞの国の英雄本多忠勝なんたらの孫娘『ビン姫』にも通じているのだ! すなわち、とても位が高いお名前なのだ! 一同! ひかえおろう! 頭が高ァァァい!」
はははぁぁぁ!
コウスケとビン子は、頭を地にこすりつけた。
なんで? ビン子も……
いやぁ、しかし、驚いた、ビン子のビンは貧乏神のビンでなくて、中国の後宮の高位の嬪だったとは驚きだ。もしかして、ビン子ってかなり上位の神様なのだろうか? タカトはそれを知っていてつけたのだろうか?
いや違う……あのタカトの顔、絶対に、今とっさに思いついただけだ。
と言うことは、やっぱり、貧乏神のビンだな……きっと。
だが、意外とタカト君、学があるじゃないか。すごい! すごい!
もしかして、神民学校に通っているコウスケよりも知識があるのかも。
そう言われてみれが、道具作りの知識にしてもそうである。タカトの知識には驚かされっぱなしだ。
もしかして、権蔵が、とても賢いとか?
いやいや、権蔵は奴隷である。第一世代の融合加工の知識は有っても、やはり学はない。駐屯地で働く日々、ガンエンに字を教えてもらっていたほどである。そのせいか、第一世代以降の融合加工については、本を読んで自ら知識を得ることができなかったのである。
とすれば、タカトは、どこからこの知識を得たのであろうか。
学校に通えないタカトは、ゴミをあさる。道具の配達帰りに、ゴミ捨て場を見て回るのである。そこに食べ物が落ちていれば、すぐさま口に、だから、お腹を壊すのである。言わんこっちゃない! いやいや、食べ物が目当てではない。そこに捨ててある本が目当てなのだ。誰も読まなくなった本をかき集めては、本棚に並べていくのである。そう、タカトの本棚の本は、全てゴミ捨て場から拾ってきたものである。子供のころからその本を読み漁る。権蔵に字を聞きながらページをめくる。ほどなくして、権蔵に聞かなくても自分ですらすら読めるようになっていた。ますます、本に没頭するタカト。タカトはいろいろな知識が詰まった本が大好きだった。エロ本から専門書に至るまで、あらゆる本を拾っては読みあさった。ただ、恋愛ものだけは意味が分からなかったのか、ビン子にあげていたようだ。




