人魔収容所(4)
「ココに入っていろ!」
タカトとビン子は、貯蔵室の一つの白い牢屋の中に放り込まれた。
床に倒れ込むタカトとビン子。
その後ろでガチャリと檻の閉まる音。
「ココから出せ!」
タカトが檻にしがみつき激しく揺らす。
「ソフィア様がおっしゃる通り、作り方を教える気になれば、出してやる」
「それはちょっと……」
急に静かになるタカト。
バカにしたように衛兵は、鍵をくるくると回しながら、その場を離れていった。
「どうしようタカト」
ビン子は不安そうにタカトに尋ねた。
下をうつむき黙っているタカト。
その様子に心配したのか、ビン子は、優しく声をかける。
「タマホイホイって、そんなに難しいの? 私が手伝ったんじゃだめかな?」
――ビン子ぉ……お前が手伝ったらますますアカンって!
内心、いかんともし難いタカトは、力なくその場に座り込みうなだれた。
――本当、どないしよう……
「もしかして、タカトじゃないか?」
はて、この声は? 聞き覚えのある声がしたではないか。
タカトは、とっさに顔を上げた。
白い部屋の中の周りを見渡す。
白い牢屋の檻の前に白い廊下。その廊下を挟んで白い牢屋が並んでいた。
向かいの牢屋の檻に、なにやら下着姿の男が鉄の棒に顔を押し付けている。
目を凝らすタカト。
はて……? あのバカ顔はどこかで見たことがあるような?
さてはて一体どこでしょう?
ぼーっと見つめるタカトにいら立ったのか、檻に顔を押し付けている男は、更に怒鳴った。
「お前! タカトだろ! 俺だよ! コウスケだよ!」
ほほう! この男はコウスケと言うのか……
うん? コウスケ……?
「あっ! コウスケ! なんでお前がこんなトコロにいるんだよ!」
タカトも檻に顔を押し付けた。
白い廊下を挟んで、タカトとコウスケが檻に顔を押し付けあっている。
その檻の隙間に押し出される二つの顔は、柵に引っ張られ、目が真一文字に伸びていた。
「いや、タカトこそ、なんでいるんだよ!」
ビン子も驚いた。
「なんで、コウスケがいるの?」
「いやぁ、なんか俺、人魔収容所に収容されちゃって」
「えぇぇ、コウスケって神民じゃなかったっけ?」
「俺、神民だよ。神民なのにこの扱い。ちょっとひどいと思わないですかビン子さん!」
タカトがすかさず突っ込んだ。
「全然!」
「なんだと! タカト!」
「大体、お前が神民であることがおかしいんだよ! お前、神民学校行ってないだろ!」
「バカ言え! 俺はちゃんと学校には行っている!」
「嘘だぁ、だったら、毎朝、なんで待ち伏せしいるんだよ!」
「そ・それは……ビン子さんと……」
――いや……違う。
それはビン子さんを言い訳として、タカトと会いたかったのだ。
それは、カレエーナ師匠に気づかされた。
自分の心に素直になれと。
「お……おれは……」
コウスケは意を決したのか、タカトに自分の気持ちをぶつけようとした。
しかし、はやり、緊張する。
うまく口が回らない。
「何だって?」
向かいの檻では、タカトがこれみようがしに自分の耳に手を当てて、大きな声で言えと催促してる。
目をつぶるコウスケ
「タっ!……タカトに……」
「ところでコウスケ?」
いいところで、ビン子がコウスケに声をかけた。
はっと、つぶった目を開けたコウスケ。
ビン子は檻に手をやり、尋ねた。
「コウスケ? あんた、タカトにムフフな本を貸してる?」
――えっ? ビン子さん……今、それって確認しないといけないことでしょうか?
檻に手をかけるタカトが、横のビン子を見ながら固まっていた。
しかし、ビン子にとっては、一大事。
もしコウスケのものであれば、勝手に破棄するわけにはいかないのだ。
ビン子なりに、ムフフな本の所有者を特定しようと頑張っていたのだ。
「ビン子さん……ムフフな本って何のことです?」
なんか、コウスケは一生懸命決めた覚悟がスッと消えたような気がした。
「そう! それならいいわ」
ビン子は横で固まっているタカトをにらみつけた。
檻を掴むタカトは、背を丸め、カタカタと揺れている。
静かな貯蔵室に、タカトが揺らす檻の音が響き渡る
まるで、動物園のサル、いや実験動物のサルのようである。
ビン子の目がタカトを冷たく貫いた。
「タカト……分かっているわよね」
タカトは、懸命に首を振った。
「ビン子さま、後生です。それだけは……それだけは……お許しください」
家に帰ればムフフな本が捨てられる。
直感的にそれを察したタカトは、ビン子の足に泣きすがった。
しかし、そのムフフな本の処遇については、ココから帰れることができればの話なのであるが。この二人は、分かっているのであろうか? 一体、どうやってここから帰るつもりなのであろうか。
すでに、怒り心頭なビン子は、泣きすがるタカトの頭をガシガシと足蹴にしている。
一方タカトは、ムフフな本のためならプライドを捨てた。まさに命乞いに必死である。
うーん、本当にどうするんだよお前たち……




