人魔収容所(2)
「お前はこれを知っているか?」
ソフィアは机の上に筒状の道具を置いた。それはまさしくタマホイホイ。
――あっ! あんなところにあったのか!
タカトの足がとっさに一歩前に出た。
「その顔つきは、知っているのだな」
姿勢を崩さないソフィアが微笑む。大当たりと言わんばかりに微笑んでいる。
その瞬間タカトの足が止まった。
――何か嫌な予感がする。
タカトの本能がそう叫んでいた。
静かにソフィアは続けた。
「これは人魔を呼びよせるらしいな」
――はい?
意味が分からないタカトは、固まった。
だって、タカト自身、タマホイホイは、タマを呼び寄せるという大義名分で作ったのである。実際の使用目的は実のところ他にあるが……
だから、タマを呼び寄せると言われれば、そうかもと相槌を打ったかもしれないが、それがよりによって人魔を呼びよせるとは初耳だ。
――何言っているのこの人?
だが、ソフィアの赤い目は冷たい。どうも冗談を言っているようではないことはすぐわかった。
「あの……すみません。僕には何のことだか分からないのですが……」
タカトは手をコネコネ。下手に出て様子を見る。
「シラを切るか……」
ソフィアは手を机について立ち上がろうとした。前屈した体から紫の長い髪が机の上へと流れ落ちてくる。
「いや……本当に……」
訳が分からないタカトは、手を前で大きく振った。
ソフィアは執務の机をぐるりと迂回して、ゆっくりとタカトの前やってきた。
そして、タカトの顔に顔を近づけ、人差し指でタカトの顎を持ち上げる。
ソフィアの甘い息がタカトの顔をかすめていった。
その香りに、タカトの視界がピンクに変わる。タカトの目にハートが浮かんでいたのだ。
そう、まるで魅惑でもかかったかのように。
「もう一度聞くよ。これは人魔を呼ぶんだろ」
「しりましぇーーーん」
ソフィアは人差し指をはね上げた。それに伴いタカトの視界がピコンっと部屋の天井をとらえた。
フン!
――これでも答えないということは本当に知らないのかい。この小僧!
限界まで後ろに反り返ったタカトの頭は跳ね返る。そして、その勢いでソフィアの胸の谷間へと飛びこもうとした。
「ソフィアさまぁァァぁ! おっぱいもましぇてくだしゃァぁぁい!」
しかし、タカトのその野望は、すぐについえた。
そのタカトのデレデレの様子にカチンと来たビン子が、タカトの足を踏みつけたのだ。これでもかと言わんばかり思いっきりに。
「いてぇぇぇぇ!」
タカトは叫んだ。
左足を抱え、ぴょんぴょん跳びで痛がった。
「何をしやがるんだビン子!」
「別に……」
そっぽを向くビン子。
その様子にソフィアが一瞬驚いた。
「この小僧……私の魅惑を破ったというのか……」
しかし、その驚きを悟られぬように、すぐさま落ち着きを取り戻す。
「それでは、小僧、この道具の作り方を教えてもらおうか」
ソフィアはタカトをじーっと見つめる。
しかし、先ほどとは違いタカトは魅惑にかからない。
――なぜだ……なぜ、魅惑が通じない。
焦るソフィア。
しかし、魅惑とは、まるで神の恩恵のようなスキル。いや、神の恩恵そのものか。




