表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/644

一寸の虫にも五分の愛

「オオボラ! 11時! 上角60度! コイツ、早いぞ!」


 カエルがゲロリと鋭く鳴き、尖った鼻先を闇の一角へと向ける。

 それを確認したタカトは、即座に状況を判断し、声を張り上げた。


 その叫びに反応するように、オオボラが動く。

 伸びてきた触手を、まるで舞うように『至恭至順』でいなしてみせた。


 ──音が止まった直後に来る。それが合図だ。

 きっと触手は、後方に引いてから勢いをつけているのだろう。


「奴の位置さえわかれば大丈夫だ!」


 タカトの指示は、あくまでタカトから見た角度と方位。

 だが、それを瞬時に頭の中で変換できるのが、オオボラの強さだった。


 ──けれど、このままいなし続けていても、埒が明かない。

 攻撃を防ぐだけでは、前には進めないのだ。


 ならば──今しかない!


 オオボラは、触手の軌道が逸れた一瞬の隙を見逃さなかった。

 低く構え、全身に力を込める。

 そして、大地を蹴った。

 洞窟の湿った空気を裂きながら、矢のようにその身が前方へと飛び出す──!


「2時! 下角45度! すぐ目の前だ!」


 タカトの声が響いた瞬間、オオボラは即座に鉈を振り払った。

 暗闇の中、何かを切った手応え──ゴリッとした質感が、掌から肘までを震わせる。


 だが──浅い!


 理由は明白だった。

 そう、オオボラの鉈はすでに半分に折れていたのだ。

 もし刃が完全な状態なら──確実に斬り裂けていたはず。

 だが、今さら悔やんでもどうしようもない。


 オオボラはすぐに意識を切り替えた。


 ──ならば、もう一撃だ!


「タカト! 奴はどこだ!」

「壁を登ってる! お前の頭の上だ!」


 その声を聞くや否や、オオボラは膝を沈め、天井めがけて鉈を突き上げた。


「くたばれ、クソ虫がッ!!」


 だが──その瞬間だった。


 べちゃっ。


「ぶはっ⁉」


 突如、顔面に何かモフモフしたものが張りついた。

 モフモフなのに、べちゃっ?

 ……べちゃなのだ。


 その違和感に、オオボラは咄嗟に攻撃を中断し、後方へ跳び退いた。


「な、なんだこりゃ……!」


 顔にまとわりついた何かを、必死に振り払う。

 指先には、ふわふわとした毛の感触。だが、その奥には──ぬるっとした、ヒダ状のうごめきがあった。

 しかも鼻をつく、強烈な悪臭。

 腐ったヨーグルトを煮詰めたような異臭が、脳を直撃する。


 「おえっ!」


 オオボラは反射的に胃液を吐き出した。

 足元に広がるゲロの中で、何かがもぞもぞとうごめいている。


 ──万毛かよ。


 オオボラはその毛むくじゃらを、容赦なく踏み潰した。


「臭えんだよ……このゴミがッ!」


 ブシュッ!

 体液をまき散らして潰れる万毛。

 どうやら、『珍毛』を守るために、身を挺して飛びかかってきたらしい。


 ──そう、一寸の虫にも五分の魂。

 ……いや、一寸の虫にも五分の愛だ。


 一寸は約三センチ。

 万毛の全長は三十センチ──つまり十寸。

 ならば、十寸の虫には──五十分の愛がある!


 ……もう、そりゃデカい。愛も、態度も、臭いもな。


 だが、オオボラが万毛を踏む潰した瞬間、風切り音が変わった。

 おおかた、雌の万毛を踏みつぶされたことに珍毛が頭にきたのだろう。

 先ほどよりも触手の動きが大振りになったのだ。


「オオボラ! 来るぞ! 11時、上角65度!」


 タカトの声に、オオボラは即座に鉈を構えた。


 だが──来ない。


 攻撃の気配が、先ほどより明らかに遅れている。


 ──来たッ!

 闇を裂く気配。

 オオボラは反射的に鉈を薙ぎ払った。


 キィンッ!


 刃が何かをとらえた。だが──軽い。

 鋭さも、重さも、先ほどまでの圧力がない。


 ──すっぽ抜けたような……?

 一瞬の違和感に、オオボラの脳が働く。


「……やっぱり、さっきの一撃、効いてたな」


 思い返せば、先ほどの一撃は確かに手応えがあった。

 どうやら、触手の“根元”に深く食い込んでいたらしい。


 完全には断ち切れなかったが、それでも半分は裂けていたのだろう。

 そのせいで、動きが鈍り、力も伝わっていない。

 攻撃のタイミングも、速度も、すべてが鈍っている。まるで別物だ。

 例えるなら、以前の珍毛の触手の動きは、野原しんのすけの「ぞぉ〜さん! ぞぉ〜さん!」のようにキレがあった。

 それが今や──

 ジジイが口を乾かしながら呟く「ぞ……う……だ……ぞう……」のような、しなびきった動きに変わっている。

 もう、みさえですら怒らない。むしろ、静かにため息をついて帰るレベルだ。


 ──よし、確実に削れてきている。

 オオボラの口元が、わずかに吊り上がった。


 松明の明かりを掲げ、オオボラは前方を照らした。

 赤くゆれる光が、闇の中にぽっかりと穴を開ける。


 その先にいるはずだ。珍毛。

 今の奴には、もう攻撃手段は残っていない。

 ならば──

 あとは体になたを突き刺すだけで、すべてが終わる。


 オオボラは、気配を感じながら、ゆっくりと足を進めた。

 闇の奥に──かならず、何かがいる。

 じっとりと空気が重くなったその先で、かすかに動く影があった。


 ジワリと、光に浮かび上がる黒い塊。

 毛。いや、ただの毛ではない。

 それは、巨大な毛の山のようだった。


「オイ! タカト! コレが珍毛か?」


 魔物に詳しくないオオボラは、背後のタカトに声を飛ばした。

 すると、即座に返ってきたのは鋭い否定だった。


「違う。それは万毛だ! しかも……山のように積み重なってる!」


 驚いたような声だった。


 言われてみれば、確かに異様だ。

 モフモフとした毛が、幾重にも折り重なっている。

 ただの一匹ではない。群れている。

 そして──


 ……動いている。


 よく見ると、毛の先がわずかに揺れていた。風ではない。生きているのだ。

 これは、死骸の山ではない。


 なぜ、こんなに密集している?

 なぜ、身を寄せ合うように積み重なっている?


 嫌な予感が脳裏をよぎる。

 オオボラは松明の火を近づけた。

 すると、その下に何か、別の気配を感じた。


 まさか──


「……タカト、珍毛は、もしかして……」


「おそらく、その下にいる。万毛たちが、傷ついた珍毛を守ってるんだ」


 タカトの声が、低く響いた。

 毛の山の下で、珍毛が息を潜めている。

 雌たちがその身をもって、庇っているのだ。


 オオボラは無言で毛の山を見下ろした。

 目の前のモフモフは、ただのモンスターではない。

 その一塊に、どれだけの思いが込められているのか──

 たとえ敵であっても、少しだけ、躊躇が生まれる瞬間だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ