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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第三部 第一章 病院ではお静かに

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修羅と修羅(4)

「何しやがる!このバカ女!」

 タカトは背中に抱き着くアルテラを振りほどくと怒鳴った。

 タカトの目は涙で潤んでいた。

 手の平からこぼれ落ちた勝利の瞬間。

 絶対的に確信した勝利。空腹を満たす至福の時間。

 タカトは、さも、今すぐ、返せと言わんばかりにアルテラを強く睨みつけていた。

 一方、振りほどかれたアルテラも、タカトを見上げていた。コチラもこちらで涙がウルウルだ。


「だって……あの部屋見たら、何かあったかと思うじゃない!」

 両手で何度も何度も涙をふきながらアルテラは叫んだ。

 でも、良かった。何もなくて本当に良かった。

 安心した心から、とめどもなく涙が溢れてくる。


「今、まさに何かあったんだよ! どうしてくれるんだ! 俺の大切な物を奪われたんだぞ!」


 アルテラは、驚いた。

 もしかして、元気に振る舞っているのは、私を気遣っての事なの?

 既に、大切な命はつきかけようとしているの。

「えっ……もしかして、ダーリン死んじゃうの? ……そんなのイヤ!」


 一方、怒りが収まらぬタカトは、まくしたてる。

 アルテラの気持ちなどお構いなし。

 とにかく、握り飯のことが悔しくて仕方ないようだ。

「俺の握り飯! 返せ!」


 一瞬、聞き間違えた?

 生きるか死ぬかを話しているのに、握り飯?

 この人は何を言ってるの?

 きっと、何かの間違いよね。

 そうよ、私の聞き間違い。

 キョトンとするアルテラは、念の為、聞き直した。

「握り飯って……あの、ご飯の塊?」


「それ以外に何かあるのかよ」

「はぁ? なんなのよ! それぐらいで! 私がどれだけ心配したと思っているのよ!」

「知らねぇよ!」


 ふつふつと沸き起こるアルテラの怒り。

 シーツを強く握りしめる両の手がぷるぷると震える。

 コイツは、私のことをなんだと思っているのよ!

 まさか! 婚約を匂わせて、私を縛る気? 束縛する気?

 もしかして、亭主関白!


「私と握り飯どちらが大切なのよ!」

「握り飯だよ!」

「ひ! ひどぉぉぉぉい!」

「アホか! 握り飯とお前だと勝負にもならんわ!」

「ふん! ……別にいいわよ! 私が握り飯を握れるようになればいいだけのこと!」

 アルテラは腕を組みフンっとそっぽを向く。

 その目の先には、ビン子が口の周りに米粒をつけてぽかんと目を丸めていた。

 はて? この娘は誰だろう?

 アルテラはとっさに考えた。

 もしかして、もう……別の女ができたとか……

 私と言うものがありながら、不倫ですか! 不倫!

 不浄! 汚い! 薄汚い!

 これだから男と言うのはダメなのよ!

 アルテラは、怒りを飲み込み、平静を装う。

「……あらぁ……そちらのお嬢さんは。初めてよねぇ……」

 その言葉に、ビン子の表情が引きつった。

 それもそのはず、アルテラの目が笑っていない。

 それどころか、体中から立ち上る殺意にも似た闘気。

 ビン子は、神であるにもかかわらず、己の死を覚悟した。


 タカトは、そのアルテラの殺気を目にしたとたん我に返った。

 なんかマズイ様な気がする……

 そう言えば、ビン子とアルテラって初めてだったっけ……

 さすがに神様とは言えないし……

 他人です! ルームメイトです!

 なんて、この状況で、赤の他人が一緒に住んでいますなんて言ったら殺される?

 うん、確実に死ぬ……

 いや、百歩譲って死ぬのがビン子だけならまだ許そう。

 その怒りの矛先は、俺にも向けられるかもしれない……

 いや、必ず向くだろう。

 さすれば、よくて半殺し……

 嫌だ……

 痛いのは嫌だ……

 うーん。


 タカトはとっさに誤魔化した。

「俺の妹でして……」


 ビン子もタカトの誤魔化しに飛び乗った。

 アルテラの冷たい目が、じーっとビン子を見つめていたのだ。

 生きた心地がしやしない。

 この際、何でも構わない。

 生きて帰れるのなら、妹でも何でも甘んじて受けようではないか。

「はい、妹です妹です。妹のビン子と言います。兄がお世話になっています。テヘ」

 可愛らしく首を傾けベロを出す。

 極めつけに、自分で自分の頭をグーで小突いた。

 ここまでして媚びたいのかビン子よ。


 しかし、これは、効果が絶大だった。

 アルテラの厳しい表情が、一気に緩んだのだ。

 先ほどまで、今すぐ殺すと言わんばかりのその目は、にこやかに笑みを浮かべている。

「えぇー! ダーリンに、こんなにかわいい妹さんがいらっしゃったの?」

 タカトとビン子は、そっとため息をついた。

 助かったぁ!


 突然、アルテラは、優しくビン子の両手を握る。

「私はアルテラ、お兄さんの恋人です。よろしく」

 タカトはとっさに手を振り拒絶する。

「いやいや違うから」

 アルテラはビン子の手を握ったまま、ジトーっとした目でタカトをにらむ。

 まさに、なんでそこを拒否するのかなと言わんばかりである。

「私の初めてを奪った上に、あんなに激しく愛し合ったのに」

「あれは事故ですから」

 つっこむタカト。

 病室の入り口にもたれるオオボラが咳ばらいをする。

 ビクッと固まるアルテラ

 軽い咳払いと共にが気を取り直した。

「ところで、ダーリン。もう退院なんでしょ?」

「えっ! 俺退院するの?」

 オオボラがあきれた様子で説明する。

「神民病院がこんなに大変なのが分からないのか。何事もないお前に病室をあてがう余裕などない!」

「そうか……ここの飯ともおさらばか……残念だなビン子」

「残念だね……」

 急に涙ぐむタカトとビン子は、力なくうなだれた。


「ねえねぇダーリン、快気祝いに万命寺の近くにある温泉に行こうよ」

 アルテラが誘う。

「二人が再会した場所の近くに温泉があるなんて、なんか運命感じない」

「まったくもって感じません」

「ビン子ちゃんも一緒にどう?」

「いやぁ、私はなんというか……」

 煮え切らない二人に苛立ちを覚えるアルテラはついに最終手段に打って出た。

「ここの治療費払えるの? 結構高いわよ」

 意地悪そうに笑うアルテラ。

 ――脅迫か!

 ――脅迫と来ましたか!

 引きつる二人。


 トントン


 開け放たれたドアを一人の少女がノックした。

 その少女はしずしずとオオボラの前を通り部屋の中に入ってくる。

 金蔵真音子であった。

 真音子はベッドを横切り、窓の前まで行くと、さっと振り返る。

 窓から差し込む日の光が真音子の黒髪をキラキラと輝かせている。

 美しい。

 しかし、そんな美しい少女から出た一言は、タカトとビン子をさらに引きつらせた。


「その病院代、私が追加融資させていただきましょうか?」


 ――あかん! これ以上借金重ねたら、本当に内臓全部売る羽目に。

 ――私……お風呂に沈められたりするかしら……

 首をぶんぶんと振り、全力で拒絶するタカトとビン子。








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