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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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美女の香りにむせカエル 象さんPOモード

 前方を警戒するオオボラは、じりじりと足を止めたまま、闇の奥へと目を凝らしていた。


 ──あの触手……やはり厄介だな。


 洞窟の空気はじめじめと重たく、視界はせいぜい数十センチ先までしかきかない。

 その先は、濃密な闇が黒い泥のようにのしかかり、何も見えない空間と化していた。


 どこから、いつ、触手が飛んでくるか──まったく予測がつかない。

 先ほどは、偶然と反射神経が噛み合ってかろうじて回避できた。

 だが、次も同じようにいけるとは限らない。


 タカトによると、触手は一本だけ。

 本来は、メスと交尾するための器官だという。

 だが、それは縄張りを荒らす外敵に対しても容赦なく向けられる。


 ただの生殖器具にしては、あまりにも暴力的すぎる。


 だが、問題は、その“速さ”だった。


 触手が振るわれた一瞬、耳に届いたのは風を裂くような甲高い音。

 まるで音そのものが衝撃波になって、周囲を打ち砕くようだった。


 ──あれが直撃すれば、ただではすまない。


 事実、先ほど触手が掠めた岩肌は、円柱状に抉れ、内部の石が丸ごと吹き飛んでいた。

 ただの鞭ではない。岩を穿つほどの質量と速度がある。


 ──これが人間の頭なら、ひとたまりもない。

 ──頭蓋骨など、簡単に砕けるな。


 そう思ったとき、オオボラの脳裏に、さきほど見た転がる頭骨のイメージがよぎった。


 ……まさか、あれも──あの触手の犠牲か?


 洞窟の奥からは気配が消えない。

 いや、それどころか、先ほどよりも気配が濃くなっている気がした。

 まるで、暗闇そのものがこちらを睨み返してくるような、そんな不快な感覚。


 だが、このまま立ちすくんでいても何も変わらない。

 後ろに引く選択肢もない。


 ならば、前に出るしか道はない。


 「……仕方ねぇ」


 オオボラは覚悟を決め、一歩──右足を前へと踏み出した。


 その刹那──


 ピタリと、風の音が止んだ。


 いつの間にか、洞窟を包む風切り音が、凍りついたように静まり返る。

 妙な沈黙。空気すら動かなくなったような、圧迫感。


 ──来る!


 直感が、そう告げていた。


 オオボラは反射的に、手に持った鉈を顔の横へとかざす。


 直後、


 バキィィィンッ!


 耳をつんざくような金属音が、洞窟にこだました。

 鉈がまるで紙細工のようにへし折られ、二つに割れて宙を舞う。


 それと同時に、オオボラの体が側方へ吹き飛ばされた。


 「ぐッ……!」


 岩壁に背中を叩きつけられ、肺の空気が一気に抜けた。

 鈍い痛みが、背骨から脳まで突き上げてくる。

 視界が揺れ、遠ざかっていく松明の炎が、地面の向こうで小さく揺れている。


 ―― 一拍、遅れた……!


 痛みの中で、オオボラは必死に冷静を保とうとする。

 確実に、さっきよりも速くなっている。触手の軌道が見えなかった。


 ──このままでは、確実に削り殺される……!


 打開策はただ一つ。


 やつの「位置」さえ分かれば──!


 位置さえ掴めれば、軌道を読み、先手を取ることができる。

 オオボラの額を汗がつたう。


 だが──


 暗闇の中で、どうやって『珍毛』の位置を特定すればいいというのか。


 相手は音速で動く触手を持ち、姿はまったく見えない。

 松明の明かりも届かない、漆黒の空間。

 勘だけで立ち向かうには、あまりにも無謀だった。


 オオボラは、ゆっくりと立ち上がると、歯を食いしばる。


「おい、タカト!」

 叫ぶように声を飛ばした。

「お前の位置から、『珍毛』の姿は見えるか!?」


 だが、すぐに返ってきたのは、苛立ち混じりの声だった。


「暗くて何も見えやしねえよ!」


 ──やはり、ダメか……!

 落胆しかけたそのとき──


「オオボラ! 少しだけ時間をくれ!」

 タカトの声が洞窟に響いた。


「何をする! というか、どれぐらいだ!」

 触手の攻撃を間一髪でかわしながら、オオボラは聞き返す。


 タカトは岩壁にビン子を座らせると、彼女のカバンの中をごそごそと探り始めた。

「5分! いや、3分でいい!」


「……わかった。3分だな!」

 この暗闇の中での3分は、決して短くはない。

 だがタカトが何か策を持っているのなら──賭ける価値はある!


 オオボラは気持ちを奮い立たせ、折れたなたを構え直す。

「こいや! この触手野郎がッ!」


 ……3分後。

 ※なお、この間に繰り広げられたオオボラと触手の死闘については、ぜひ映像化にご期待くださいwwww(作者談)。


「できた!」

 タカトの声が洞窟内に高らかに響いた。

「何ができたんだ!?」

 触手をなたでいなしながら、オオボラが叫ぶ。


「この“美女の香りにむせカエル”にはな、裏モードがあってだな……!」

 ……出た、誰も頼んでないのに説明を始める、いつものタカト節。

 ビン子が起きていたら、きっと「また、アホなもの作ってからに……」とツッコミを入れていただろう。

 だが残念ながら、ビン子ちゃんはいまだに夢の中……Zzz

 しかもその足元には、当然ながらゲジゲジが……。

 ──これがバレたら、確実に殺される。

 そう確信したタカトは、慌ててビン子をもう一度背負い直した。


 一方のオオボラには、もはや話を聞いている余裕などない。

「そんなことはどうでもいい! 早く! 奴の位置を教えろ!」


「はい、はい……わかりましたよ……」

 つまらなそうに返しながら、タカトは手のひらで“美女の香りにむせカエル”の裏モードを開血解放する。


 「ゲロ……」


 タカトの手の上から、小さな鳴き声が聞こえた。


 「ゲロゲロ、ゲロゲロ!」


 次第に、その鳴き声は激しさを増していく。


「オオボラッ! 2時の方向5m! 来るッ!」


 タカトの叫びが飛んだ。


 その声に呼応し、オオボラは即座に構える。

 折れた鉈を両手で握り、2時方向に意識を集中──


 だが!

 ──ヒュンッ!


 風を裂く音が、まったく違う方向から届いた。


「3時だと……!」


 しかし、焦りはない。

 先ほどの一撃で、オオボラは“珍毛”の攻撃速度をすでに見切っていた。

 ほんのわずかな時間差と角度のズレ──それさえ補正すれば、捌ける!

 オオボラは咄嗟に体をひねり、足元の岩を蹴って姿勢をずらす。


 「至恭至順!!」


 身体の芯から導き出されたその技は、折れた鉈の角度を絶妙に保ったまま、迫る触手を受け流す。


 金属が風を切り、火花が一閃!

 音速の軌道が、斜めに逸らされる。

 触手の直撃を、逸らした──!


 ──どがっ!


 再び、触手が岩肌を打ち抜いた。

 空間が震えるような衝撃とともに、壁の一部が崩れ落ちる。


 だが、オオボラは一瞥すらくれず、怒声をタカトに向けて叩きつけた。


「何が2時だよ! 3時の方向じゃねぇか!!」


「あほか! 俺から見て2時だよ!!」


「お前から見てなんて知るか! そっち基準で叫ぶな!」


「仕方ねーだろ! このカエルの向きで判断してんだから、方向と距離が分かるだけでもありがたいと思え!」


 誰も聞いてくれないので、代わりに作者が説明しよう。


 “美女の香りにむせカエル”。

 本来なら、美女の体臭を感知し、“ゲコッ!”と鳴いて方向を教えてくれる──夢のような融合加工品、になるはずだった。


 ──が。


 いざ完成してみれば、美女の香りには完全無反応。

 なぜか、加齢臭──そう、「オヤジ臭」にだけ敏感に反応するという、致命的な欠陥品だったのだ。


 ……しかし、タカトはそこを逆手に取った。


 この洞窟には、『万毛』たちが放つ腐ったヨーグルトのような悪臭が立ち込めている。

 だが、その中にひときわ強烈な“異臭”が紛れているのだ。


 ……『珍毛』。オス個体が発する、生殖器由来の刺激臭。

 言うなれば、タケノコを湯がいて一晩放置したような、ツーンと鼻にくるアレである。


 その臭いを、警察犬──いや、警察象に覚えさせれば、敵の位置が特定できるのでは?

 そうひらめいたタカトは、裏モードを改良した。

 これこそ! 名付けて!

『美女の香りにむせカエル 象さんPO(パオ~ん)モード』だぁぁぁぁぁぁあ!


 ──ゲロッ!


 途端に、カエルが反応し、威勢よく鳴き出した。

 しかも、一定方向を向いたまま、執拗にゲロゲロと警告を発し続けている。


 タカトは確信した。


 ──ビンゴ!!





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