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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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供物

 洞窟の中は、まるで迷宮のように入り組んでいた。

 大小さまざまな側洞が枝分かれし、分岐の数は数えきれないほどだ。


 オオボラは鉈の背で、岩肌にガリリと矢印を刻み込んでいた。


「何してるんだ、オオボラ?」

 タカトの背中では、現実逃避を決め込んだビン子が寝息を立てている。

 スゥ……スゥ……

 まるで疲れきった子供のようだ。

 タカトは肩にずれたビン子を支え直しながら、ため息をついた。


「分かれ道に印を残してるんだ。帰り道が分からなくなると厄介だからな」


 タカトは妙に納得した。

 たしかに、これだけの分岐があれば、どの道を来たかなんてすぐに分からなくなる。

 もし帰り道を見失ったら……このまま一生、外に出られない。

 やがて干からびて、朽ち果てて、骸骨に……


 と、そのときだった。

 タカトの足元に、何かがコツンと当たった。


「っ……!」


 慌ててたいまつをかざす。

 淡い炎が照らした先に、あったのは──


 人骨。


 それも、まだ若干肉が残る骸骨がひとつ。

 骨のあちこちに、まだ黒ずんだ皮膚や筋がこびりつき、腐敗の名残が生々しく残っている。

 頭蓋のくぼんだ眼孔からは、ヤスデやゴキブリがぞろぞろと這い出し、顎のあたりを這い回っていた。

 その骸に群がる虫たちは、まるで宴の最中のように蠢いている。


 ――ひぃぃぃぃっ……!


 声が喉まで込み上げたが、タカトは必死に押し殺した。

 せめてもの救いは、ビン子がまだ眠ってくれていることだ。

 もし、今のこれをビン子が見ていたら……大パニック必至。

 小門探索どころの騒ぎじゃなくなる。

 いや、それ以前に、また大声でも上げようものなら──

 奥に潜んでいる“何か”を、呼び寄せてしまうかもしれないのだ。


「おい……オオボラ……ちょっとこれ見ろよ……」

 タカトが小声で呼びかけると、オオボラは振り返りもせずに応えた。


「ああ。見えてる。人の骨だな」


「見えてるじゃねぇよ! マジでヤバくないか!? ここで人が死んでるんだぞ!」

「そうだな。服装を見るに、かなり位の高い者に仕えていた従者のようだ」


「いやいや! 身分とか今どうでもいいんだって! これ、死んでるんだぞ!? ガチで危ないって!」


「……ということは、この小門の奥に“何か”があるってことだ。そう考えると……ワクワクしてこないか、タカト」


「何が“ワクワクしてこないか、タカト”だよ! しねぇよ! こっちはビン子背負ってんだぞ!」

 タカトは背中を揺らしながら叫ぶ。


 オオボラはしゃがみ込み、骸骨の周囲に散らばる糞に目をやった。

 松明の炎に照らされたその表面には、いくつもの足跡のくぼみが残されている。


「足跡があるな。同じ人間が何度か行き来したようだ。人数は……二人、か」


「は? 二人? ミズイがここ封印してたって話じゃなかったのか?」

 ※なお、タカトの中では“ババア”から“美魔女”へと評価が上がったことで、ついに「ミズイ」呼びが解禁された模様である。


 そんなタカトの問いに、オオボラが眉をひそめて応える。


「そうだ……だが、足跡の感じからすると、これがついたのは……せいぜい数か月前だな」

 数か月前──すでに封じられていたはずのこの洞窟に、人が出入りしていた。

 では、この骸骨となった人物は──?


「オオボラ……まさか、お前……ミズイがこの人間を“送り込んだ”って思ってるのか?」

「その可能性はあるな。もしかしたら……この中にいる“何か”への──供物かもな」


 ──ということは、まさか、俺たちも……その“供物”なのか?

 ぞくり、と。

 タカトの背筋を、冷たい悪寒がゆっくりと這い上がった。

 ――ならば、今から引き返すか……

 たしかに、それが一番確実な選択だろう。


 だが、オオボラの眼差しは真剣そのものだった。

 おそらく、キーストーン──いや、大金への渇望が、彼を突き動かしているのだろう。


 この状況で「帰ろう」と懇願でもしようものなら──たぶん、殴られる。

 いや、殴られるだけならまだマシだ。

 ここは人目のない洞穴内。オオボラの手には頑丈な鉈。

 最悪、足元の頭蓋骨の隣に、自分の頭が並ぶ羽目になりかねない。


 そして、本来ならこの状況で真っ先に猛反対しそうなビン子は──いまや、タカトの背中でぐっすり夢の中。


 ……ならば、もう道はひとつしかない。


 ――さっさとキーストーンを見つけて、さっさと逃げ出す。


 そう腹をくくり、タカトは目の前の分岐をにらみつけた。


 だが、どちらに進めばいいか、さっぱり分からない。


 こういうときのパターンは、決まっている。

 一方が当たりで、もう一方が死に直結。


 ――さてさて……どちらが正解で……どちらが地獄の入り口か。

 タカトの脳内パソコン腐岳も答えを出しあぐねていた。


 そんなタカトは、オオボラに声をかけた。


「おい、オオボラ! どっちに行けばいいか──お前、分かってるんだろうな!?」

「いや」


 オオボラは即答した。


「知らんのかいッ!」

「俺だってこの小門に入るのは初めてだ。当然、分かるわけがないだろうが」

「そりゃそうだ……」

 素直に納得してしまうタカトであった。


 ──なら、どうすりゃいいんだよ……


 「なら、いっそ外に出ようぜ」と言いかけたその瞬間。

 オオボラが松明をかざし、地面の蝙蝠のフンを照らし出した。


「俺には分からんが……先に入った人間なら知っていたはずだ」


 そう、地面にはあの骸骨のものと思しき足跡が、まだくっきりと残っていた。

 その足跡は、分岐の一方に集中している。


「この足跡を辿れば──きっと何かある」


「おいおい、それって……その足跡の奴、死んでたんだぞ? つまり、その先には“死ぬ何か”があるってことだろ!?」


 だが、オオボラはニヤリと笑う。


「ああ、一人は死んでた。……だが、足跡は二人分ある。ってことは、一人は生きて帰れたってことだ」


 その顔を見た瞬間、タカトは思った。

 ──こいつ……いざとなったら、俺を置いて逃げるつもりじゃ……!?


 不安を打ち消すように、タカトは改めて念を押す。


「オオボラさん……えっとですね……ヤバいやつが出てきたら、オオボラさんが戦ってくれるんですよね? 約束ですよね?」


「ああ、任せとけ! なんてったって、俺は対応戦力等級25だからなッ!!」


「……でも旦那、それって……制圧指標25“以上”の魔物が出てきたら、勝てないってことじゃ……?」


 その言葉に、オオボラの眉がぴくりと動く。

 少々バカにされたと思ったのか、不機嫌そうに口をとがらせた。


「だいたい、小門の中にそんな大物が出てくるわけねぇだろ!」


「本当ですね!? 信じていいんですね!?」


「ああ! 俺を信じろ!」

 そう言い放ちながら、オオボラは鉈で岩肌に、白い矢印をガリリと刻み込んでいった。




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