ミッション・ビンボッシッブル(2)
タカトは、袋をガバッと広げると、中に手を突っ込んだ。
ビン子もまた、自分の袋に手を突っ込んでいる。
「何が出るかな? 何が出るかな?」
「タララらッタン・タラララ!」
タカトの手には、ケチャップが大量に付いたオムライスの卵焼きが握られていた。
ビン子の手には、野菜の千切りが絡まった唐揚げが握られていた。
「あぁーーー。俺、そっちの唐揚げの方がいいなぁ」
「残念でした。これは私のでーす」
ビン子はから揚げにかじりつく。
仕方なく、タカトは卵焼きを口に入れた。
次々に袋に手を入れて、中の食料に食らいつく二人。
その手と顔には、赤い飯粒が大量についていた。
「今日も、腹いっぱい食ったな」
「タカトに出されるご飯だけじゃ足りないものね」
「だろう、でも、こんなに残しやがって」
「こんなにおいしいのに、どうしてなんだろうね……もったいないね」
「だいたい、神民たちは贅沢なんだよ」
「スラムには、ご飯を食べれずに死んでいく子もいるのにね……」
「あいつらにとっては、所詮、スラムの事なんて、人ごとなんだよ」
「悲しいよね……」
「まぁ、俺たちにとっては、その方がいいけどな。だって、その分、食えるからありがたいし」
「そうだけど……なんだかね……」
悲しそうな表情のビン子は袋を横に置くとスッと立ち上がった。
「おっ! ションベンか? 俺のもついでにしてきて! よろピコ!」
「何言ってんのよ! 手と顔を洗いに行くだけよ! 大体、そんなの代わりにできないでしょ!」
プイと横を向いたビン子は、ドアを開け廊下へと出ていった。
タカトは、小指の外側についた糊状のでんぷん質までも丁寧になめあげる。
その様子はまるで猫が毛づくろいをしているかのようであった。
コツコツコツ
タカトの背後から、足音が聞こえてくる。
――この足音、ビン子ではないな!
なぜなら、こんなに早く帰ってくるはずがない。
あれだけ食ったのだから、絶対に大きい方だ!
(絶対に! 絶対に違います! ※ビン子怒りの心の言葉)
咄嗟にタカトは、手に持つ袋をベッドの下に投げ込むと、自分の体をベッドの中へと潜り込ませた。そして、急いでシーツを頭までさっとかける。
この足音は、きっとフジコさんだ。
近づいたところで、いきなり顔を出して脅かしてやろうっと。
もしかしたら、イヤァ、タカト君たらぁってな展開もあるかも。
シーツの中のタカトの顔はにやけていた。
病室のドアが静かに開いた。
シーツの中に隠れるタカトの耳に、近づいてくる足音が聞こえる。
足音はタカトのベッドの横で止まった。
今だ!
ぱっと、シーツから顔を出すタカト。
がぁぁ!
緑の目をした人の顔ほどのハエのような顔がタカトを覗いていた。
ぴgyぁぁぁぁ!
タカトは悲鳴とも驚きとも分からぬ言葉にならない大声をあげた。
その声は、開いた扉から、病院中に響き渡った。
廊下から多くの足音が駆けつけてくる。




