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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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小門

 美魔女と化したミズイは、腰に手を当てて堂々と胸を張った。

 その姿は、まさに自信に満ちあふれた女王のごとし──もちろん、その谷間も圧巻である。


 彼女は目を閉じ、何かをブツブツと呟きはじめた。

 そして、ゆっくりと指先をくるくると回しながら、最後に空を切るように一閃──。


(※ちなみに、冒頭のシーンでも分かるように、実際は呪文を唱えるだけで封印は解けるのだが……。この女、恩を着せるためにわざと大げさにぶちかましているのである。)


 すると──なんということでしょう!

 

 ミズイの背後、崖の岩肌に微かな震えが走る。

 幾重にも重なる岩戸の表面が、ゆっくりと、まるで腐った傷口のように裂けていく。

 ゴゴゴ……という重い音とともに、割れ目はじわじわと広がり、やがて大人ひとりがくぐれるほどの穴となった。

 その裂け目からは、湿った空気が冷気を伴って押し出されてくる。

 鼻をつくのは、腐敗した何かの強烈な臭気。

 ミズイが数か月前に小門を開けたときよりも、明らかに濃くなっている。

 ミズイはその暗い裂け目を、鋭く見据えた。

 その口角が、ゆっくりときつく結ばれる。

 ――まさか……たった数か月でここまで悪化していようとはな……


 それを見ていたタカトは、思わず目を見開いた。

 ――おいおい……まさか……ここが小門だったのかよ

 なぜなら、彼の目の前にあるこの崖──そしてこの広場は、タカトがダンクロールと戦ったあの場所だったのだ。

 あの激闘のあと、権蔵と合流した際にも、誰ひとりこの広場に“何か”があるとは気づかなかった。


「ほれ、小門の入り口じゃ」

 ミズイはわざとらしく肩を叩いた。

 まるで、「頑張って一仕事終えましたよ」と言わんばかりである。


「ありがとうございます」

 オオボラは直立不動の姿勢で、深々と頭を下げた。

 その律儀な態度に、ミズイはふと問いかける。


「しかし……お前たち、本当に小門の中に入るのか?」

「はい」

「で、何のために……?」

 その問いに、オオボラは無言のまま口を閉ざした。

 ──キーストーンを探しに行くとは、今は言わぬ方がいい……。


 だが、空気というものを一切読まない男がひとりいた。

 そう、われらがタカトである。

「あのですね、お姉さまwww 俺たち、キーストーンを探しに行こうと思ってるんですが、その場所、ご存じないですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、オオボラの顔が引きつった。

 ──馬鹿か!! お前!!

 というのも、一般的な“小門”とは自然に発生するものであり、基本的には常に開いている。

 だが、この小門は、ミズイの手によって人為的に封印されていたのだ。

 つまり、それは――この中に、誰にも渡したくない“何か”を隠している可能性が高いということ。

 そんな相手に向かって、「キーストーンを探します」と告白したらどうなるか……普通に考えてアウトである。


 案の定、ミズイの目が鋭く細められた。

「お前……キーストーンを探すということが、どういう意味を持つか、分かっておるのじゃろうな?」


「当然ですよ!」

 タカトは満面の笑みで胸を張った。


「だって、キーストーンの場所を突き止めれば、大金貨500枚もらえるんですよ! お姉さまも、分け前いります?」

 下心丸出しの笑顔。大金貨500枚のうち334枚を自分の懐に入れるつもりだったくせに、美人が相手だと、あっさり1枚や2枚差し出す気になる──それが、タカトという男である。


 だが、ミズイの答えはあっさりしていた。

「……別に金などいらん」

 そして、ひと言加える。

「それに──キーストーンの場所も、私は知らん」


 その言葉を聞いた瞬間、オオボラの背中に、ぞわりと冷たいものが走った。

 なぜならミズイの瞳は、“何かを知っている”としか思えない光を湛えていたからだ。

 まるで、「知らん」と言いつつも、心の奥では企みを巡らせているかのような……。


 そんな不安を胸に、オオボラは小門へと歩きはじめた。

「タカト、行くぞ……」

 唇をかみ、決意を込めるように声をかける。


「……それじゃ! 行ってらっしゃい! キーストーンが見つかったら連絡よろぴくwww」

 タカトは背を向けるオオボラに軽く手を振ると、近くの倒木の上にゴロンと寝転がった。

 そして、ひとつ大きな生あくび。

 とてもこれから命懸けの探索に行くとは思えない、眠たげな顔だった。


 だが次の瞬間、オオボラはタカトのもとまでズカズカと歩み寄り、いきなりシャツの襟元をわしづかみにする。

「お前も来るんだよ! 分かってんだろうが!」


「えぇぇぇっぇ! ちょっとたんま! 今、俺、無性に眠いんだよ!」

 そう、先ほどミズイにカプッ♡と噛まれてからというもの、体がやたらとだるい。

 ──もしかして……人魔症に感染した?

 でも、じいちゃんが言ってたんだよな……

 『アホは人魔症にかからん!』って!

 ビン子だって、さっき念入りに言ってたじゃん。

 『馬鹿じゃなくて、アホですから!』って!

 なら、大丈夫。

 人魔症なんて、かかるはずがない!

 ……だいたい、噛んだの魔物じゃなくて神様だし!

 だったらこのダルさも、ただの寝不足!

 ちょっと横になれば、すぐ治るって!

 ほら、今ゴロンてして──


 と、思ったのに。


 無慈悲にも、タカトはズルズルと引きずられていくのだった。


 こうして、オオボラを先頭に、タカト、ビン子の三人は岩肌を上っていった。

 目の前の洞穴からは、鼻をつまみたくなるような、ねっとりとした悪臭が漂ってくる。

 それは単なる腐臭ではなかった。

 嗅ぐだけで、心の奥に嫌な影を落とす、どこか“死”を思わせるにおいだった。


 その前に立ち止まるオオボラ。

 背後からは、ミズイの視線がじっと突き刺さってくる。

 まるでこの先の道を試すかのような──冷たく、硬い眼差し。


 ──この小門は、ただの穴じゃない。何か……得体の知れない危険がある。

 そう確信させるには、十分すぎる視線だった。


 オオボラの足は、一瞬止まりかけた。

 ──本当に、このまま入ってしまっていいのか……?


 逡巡が胸をかすめる。

 だが、目の前の小門は、大人一人が悠々とくぐれるほどの広さを持っていた。

 発生からすでに長い年月が経っている証──それはつまり、中に眠るキーストーンの価値が“高い”ことを意味している。


 ……大金貨800枚、いや──1000枚クラスだって夢じゃない。

 それほどの価値があるならば、多少の危険など踏み越えるしかない。

 これはきっと、神が与えた最後のチャンスだ。


 そして、オオボラは──

 ついに、日の光と洞穴の闇との境界線を一歩、踏み越えた。


 その瞬間、背中にぞわりと悪寒が走る。

 その一歩は、まるで“もう戻れない”運命の岐路を踏み越えたような感覚だった。

 ……いや、錯覚ではない。彼はもう、引き返せない場所に足を踏み入れてしまったのだ。



 


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