悲しみの先へ(4)
窓から優しい風が吹き込んでくる。
風と共に寺の読経の声や、ほうきで掃く音などが聞こえてくる。
太陽の光が、ベッドの上で上体を起こしているエメラルダの金色の髪を輝かせている。
ベッドのそばに立つミーアの手がエメラルダの顔に伸びていく。
そして、静かに、ゆっくりとエメラルダにまとわりつく白い包帯を取り除いていく。
徐々に包帯に隠れていたエメラルダの白い肌が姿を現していく。
その肌は、包帯の白さとは別格の透き通るような白い光を放っていた。
ミーアに顔と胸の包帯を取り外されたエメラルダは、固く目を閉じている。
金色の長いまつげが、閉じた目の上でかすかに震えている。
ミーアは手術は成功したと言ってくれた。
しかし、とても怖くて目が開けられなかった。
罪人の焼きごてが入った顔が、元の顔に戻るはずがない。
この胸の感覚も、おそらく、目を開けるとがっかりしてしまうかもしれない……
そんな恐怖と不安がエメラルダを押しつぶしていた。
「ほら、目を開けなよ……」
ミーアはエメラルダに優しく語り掛ける。
エメラルダは、目をかたくなに閉じたまま、首を横に小さく振った。
「大丈夫だよ。自分で見てみな……」
再度、ミーアが優しく語り掛ける。
恐る恐る目を開けるエメラルダ。
エメラルダの目の前に、ミーアが差し出した手鏡がうっすらと映る。
その手鏡の中に、見覚えのある女の顔がハッキリと見えた。
しかし、その姿は、瞬時に滲み、ぼやけてしまった。
顔を押さえて嗚咽を漏らすエメラルダ。
その手の隙間から涙がとめどもなくこぼれ落ちていた。
「胸もしっかりと治っているよ」
上半身裸のエメラルダの左胸が、右胸と同じように、エメラルダの涙に合わせて揺れていた。
しかし、若干、再生した左胸の方が大きいような気もするのはなぜだろう。
右腕が利き腕と調べたタカトなりのこだわりなのかもしれない。
ミーアは包帯を外し終わった上半身裸のエメラルダを浴衣で優しく包み込む。
「タカトが、突拍子もないアイデアで、あんたを救ってくれたんだって……」
ミーアはエメラルダの手を取りゆっくりと浴衣の袖に手を通していく。
エメラルダの顔は、押さえるものがなくなったためか、とめどもなくながれおちる涙を治った左胸へとこぼしていく。
涙が左胸をつたい、浴衣をうっすらとにじませていく。
外の廊下の奥から騒がしい声が聞こえてくる。
「大体、タカトは、デリカシーがないのよ!」
「えっ? デリカシー? なにそれ? それおいしいの? ビン子ちゃ~ん?」
「信じられない! 本当に馬鹿じゃない!」
声が近づいてきたかと思うと、エメラルダの客間のドアが突然開いた。
「たのもーう!」
びっくりするエメラルダとミーア。
「だから、普通はノックしてからでしょ!」
ビン子がタカトの後ろで怒鳴っている。
「いやいや、お前の方がうるさいって」
怒っているビン子を気に留めることもなく、タカトはズカズカと客間に入ってきた。
その手には、近くの草原でつんできたのであろうか、花瓶にいっぱいの花がいけられていた。
タカトは、窓際にその花瓶を置く。
窓から差し込む日差しが一層花々を明るく輝かせ、客間の無機質な空間を華やかせた。
タカトは、ベッドでキョトンとしているエメラルダに近づいた。




