み・みずをくれ・・・(4)
口づけをされた童貞タカト君は、緊張で体が固まり、エメラルダに手すら伸ばすことができなかった。
エメラルダのぬくもりが唇を通して伝わってくる。
目はしっかりと見開いているにもかかわらず、タカト自身、何を見ているのか全然わからなかった。
エメラルダがゆっくりと唇を離す。
二人の唇の間に細い白い糸が名残惜しそうにゆっくりと延びていくと、ぷつんと切れた。
咄嗟に、タカトが手に持つ桶に湯を汲みいれ、自分の頭にざぶんとかける。
手でとびちる湯を遮るエメラルダには、もう笑顔が戻っていた。
更にお湯を頭へとかけるタカト。
エメラルダも、タカトにお湯をかける。
夜の露天風呂に二人の笑い声が響きあった。
ひとしきり、お湯をかけあった二人は、脱衣所へと戻ってきた。
「しまった! エメラルダさんの着替えを持ってきてないよ」
「大丈夫よ。あのマントで充分よ」
エメラルダがマントへ手を伸ばそうとしたとき、マントの上に着替えが置いてあることに気が付いた。
「あら、これ誰のかしら……」
辺りを見回すも、二人以外に誰もいなかった。
「使っていいんじゃないの」
タカトは、足にまとわりつく、ぬれたズボンをどうしようかと考えあぐね、ズボンの太ももをつまみあげ足をぷるぷるとふっていた。
エメラルダが着替えの浴衣を広げてみると、裾にコウエンの名前を見つけた。
「コウエンさんって人のものね」
「だったら、大丈夫だよ。きっとコウエンがもってきてくれたんだ」
「そうなの。だったら遠慮なく」
エメラルダは、久方ぶりの服に嬉しそうに袖に腕を通した。
すこし、なんだか肌がこそばいような気がした。
タカトは、自分の上着もないかと辺りを見回し探してみた。
脱衣所の脇のごみ箱から、青い丸が書かれた布が見えた。
それとなく、ゴミ箱から引きずり出して、広げてみる。
それは、先ほどまで着ていたタカトのシャツであった。
タカトのシャツは、ぐるぐるに丸めらて、ゴミ箱の中に無造作に捨てられていたのであった。
「これ……ゴミじゃないし……」
タカトは、べそをかきながら、その汚れたシャツに腕を通した。
すこし、なんだかしょっぱいような気がした。
温泉から万命寺への道を、こちらもコウエンの浴衣に着替えたビン子が、目を擦りながらポツポツと帰って行く。
ビン子は、権蔵とガンエンに頼まれ、エメラルダの着替えを届けに行っていた。
しかし、タカトとエメラルダの口づけに、いたたまれなくなったビン子は、何も言わずに着替えを置いて引き上げてきたのであった。
ビン子の、こする手から涙がポトポトとこぼれおちていく。
――タカトの……バカ……




