第九十五話・とんだ土下座
「し、信じられません!?こ、こんなの嘘ですわよね......!?だ、だって、
あのランスとネージュですわよ!そ、それがあんな少女ひとりにあっさり
負けてしまうだなんて......」
ランスは勇者と違えぬ強さと冒険者や周囲の人から評され、
ネージュは五大英雄王の剛力格闘王と破壊魔導王二人の子孫ですのよ。
そ、それがこんなにも無惨に、こんなにも呆気なく......
「ああ!わ、わたくし、夢でも見ているのでしょうかっ!?」
目の前で無惨に崩れ落ちているパーティ仲間...ランス達の姿にアンナリッタが
顔面蒼白な表情で頭を抱え上げながら、オロオロと狼狽えてしまう。
そんなアンナリッタに、
「ちょっと、そこの女神官!いつまでそこでボケッとしているつもりなの?」
「―――へひゃっ!?」
...と、ルコールが少しトーンを上げた声で呼びかける。
すると、その声質が怖かったのか、アンナリッタが背中をビクッとさせて、
その場を思いっきりぴょんと飛び上がる。
そしておそるおそる、アンナリッタがその声がする方向に目線を向けると、
「次はあんたの番なんだからさ、ほれ。ちゃっちゃと闘う準備をしなさい!」
その目線には威圧感たっぷりの眼光で、次の闘いの準備を催促している
ルコールの姿が映った。
「は、ははひぃぃぃぃいいぃ――――――っ!!!」
そのあまりにも威圧感の込もったルコールの眼力に、恐怖度メーターが
一気に振り切れてしまったアンナリッタは、喉が潰れるくらいの大きな声を
荒らげながら、その場をズサササと勢いよく後退していく。
そしてルコールから距離を十分に取った直後、その場からアンナリッタが
ダイナミックにジャンピングしてきた!
「おお!逃げると見せかけての不意討ちかぁ!やるじゃん、女神官♪」
ルコールがアンナリッタの不意討ち攻撃に賛辞を送った後、身を構えて
戦闘体勢に入る。
「さぁ、こい!迎え撃ってあげ...る.....ん?」
だが、ルコールの気合いをよそに、アンナリッタはルコールから少し離れた
手前に盛大に着地をし、バンッと大きな音を立てて床に両手を突きつけると、
頭を深々と下げて、ひれ伏す様に土下座をしてきた。
「ふ、不意討ちじゃありませぇぇぇん!たた、闘いなんてしませぇぇぇんっ!
ここ、降参です、降参いたしますぅぅ!かか、完璧の降伏いたしますぅうっ!
だだ、だから攻撃しないで下さいましぃぃぃいっ!こここ、この度の無礼千万な
行動、ままま、誠に申し訳、ごご、ございません、でしたあぁぁあぁっ!!
ホントォォにぃぃ、申し訳ございませんでしたぁぁあぁああ――――っ!!!」
土下座した瞬間、アンナリッタはこれでもかというくらいの叫声にて謝罪を
詫びを繰り返し、何度も何度も頭を床にグリグリ擦り付けながら、自分に
抵抗の意思はありませんアピールを必死になって主張する。
「はぁ...やれやれ。ここまで卑屈な態度にでられちゃうと、流石に殺る気も
なくなっちゃうなぁ。ったく...しょうがない。今回は特別に許してあげるか...」
目の前で懸命必死に謝ってくるアンナリッタのその姿に、ルコールの怒りが
スッカリ意気消沈してしまい、口から深い嘆息が洩れると、ルコールは
アンナリッタの謝罪を受け入れた。
「あ、ありがとうございますぅぅぅうぅぅぅ―――――っ!!!」
ルコールから許しを貰ったアンナリッタは、笑顔全開の表情で感謝感激の
叫声を荒らげながら、再び深々と土下座をするのだった。




