第二百七十二話・ランクアップ
「え?こ、このアルティメットポーションをオークションにか?」
「ああっ!そいつをオークションに出品すれば、きっと金貨数千枚は、
いいや!もしかしたら場合よっては白金貨の価値までいくかもしれんぞ!」
き、金貨数千枚!?
し、白金貨!?
白金貨って、確か金貨よりも価値が上のやつだよな!?
マ、マジか!?
マジでそんな値段で売れるのこれ!?
「そ、そっかぁ~。そんなに沢山の金貨が貰えるんだったら、こいつを
オークションに出してみよっかな?」
金貨数千枚の値がつくと聞いた俺は、アルティメットポーションを緊張
した目で見つめ、生ツバが喉をゴクリと通る。
「おおおっ!出品する気になったのか、レンヤッ!?よっしゃ~~っ!!
それなら早速、アルティメットポーションの相場を改めて調べてくっから
よ、そこでしばらく待っててくれやっ!!」
俺の呟きを聞いてギルマスが満面の笑みでこちらにサムズアップをビシッと
突き出すと、ギルドの奥にあるオークション会場と連絡のできる部屋に
向かって猛ダッシュで駆けて行った。
「お、おい!ちょっと待てって、ギルマス!?お、俺はまだ出品するって
決めたわけじゃ!?」
俺は軽い足取りで駆けて行くギルマスを慌てて止めようとするものの、
しかし俺の発した「待った」の声はギルマスには届かなかった。
「ったく...」
でも金貨数千枚かぁ。
「もしそんなに値段がつくっていうなら、出品しても良いかもしれんな?」
「いやいや、レンヤさんよ。それをオークションに出すなんてトンでも
ない。後で絶対に後悔するからやめときなさいな」
俺がオークションに出品してもいいかと口にすると、それを横で聞いて
いたルコールが、アルティメットポーションの出品を反対してきた。
「ええ~!な、何でだよ、ルコール!?こいつは作った本人が言うのも
なんだが、中々に良いアイテムだと思うぞ。それにこれからの旅の事を
考えれば、こんな一回限りの消費アイテムなんかよりも、金貨数千枚の
方が良いんじゃないのか?」
出品を反対してくるルコールに、俺は不満げな口調で何で反対するんだと、
その理由と訳をルコールに問う。
すると、ルコールが珍しいくらいのド真面目な顔をして、
「あんたの言う事も尤もさ。けどね、これから先...どんな困難や予期せぬ
出来事が、はたまた死ぬ寸前な展開が起こるか、それは分からないんだ。
そうなった時に「ああ!あんときアルティメットポーションを売らな
きゃ良かったぁぁあっ!!」って、後悔をしないと断言できる?」
何でアルティメットポーションを出品する事に反対するのか、忠告と
説教の入り混った説明で淡々と語っていく。
「そ、それは......」
「出来ないでしょう?だからそんな目先のお金よりも、今述べた大事ごとを
視野に入れて、そのアイテムは手元に置いておく方が、断然常識...賢明な
当然だと思うけどねぇ、あたしは!」
「そ、そっか。そうだな、た、確かにお前の言う通りだな......」
俺はルコールからのド真面目モードによる忠告と説教を素直に受け入れ、
アルティメットポーションをオークションに出品するのを取り止める。
それからしばらく後、瞳をキラキラと輝かせながら奥の部屋から帰って
きたギルマスが、オークションへのキャンセルの事を俺から聞かされると、
途端目の前のテーブルにハゲ頭をドンと落とし、物凄く悄然してしまう。
俺はそのオーバーな落ち込み具合に、何故そこまで落ち込むんだと不思議に
思い、それをギルマスに問うてみた。
するとギルマス曰く、アルティメットポーションをオークションに出した
場合、自分とこのギルドランクが上がったらしい。
ギルドのランクが高くなると、それと相まってギルドの信用と信頼も
ぐんと上がり、質の良い冒険者が集まりやすいんだそうだ。
「ヤケにオークションへ出品を進めてくると思ったら、そんな思惑を
目論んでいやがったとは......」
そんな事を愚痴をこぼしているギルマスを見て、俺はジト目で呆れ返る。
因みに出品キャンセルのペナルティは、出品の手続きをしていなかったので、
特に何もなかった。




