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第二百三十四話・ヴィレン・グラード・ナグザー


「......これでよしだ。今後から気をつけろよ、白いの!」


ホノカが眉を寄せてフッと嘲笑うと、懐に布をゆっくりと仕舞う。


「ぐぬぬぬぅうぅぅぅっ!お、己ぇえぇえ、赤いのぉぉおぉぉおおっ!

よくも...よくもボクの邪魔をしてくれたっすねえぇぇぇぇええっ!!」


「ふ、面白い!やるか、白いのっ!」


レンヤとのイチャイチャを邪魔されたユキが、怒りに震えながら氷の大剣を

背中から引き抜き、ホノカに向けて身構えると、ホノカもニヤリと口角を

上げた後、背中から大剣を引き抜いてユキへと身構える。


「ハァ...こいつらはまた......」


何度目だろうか、それはもう忘れたが、ホノカとユキの喧嘩に俺は

呆れ口調で頭をポリポリと掻き、軽くたん息を吐いた後、二人の喧嘩を

止めるべく、足を一歩前に踏み出そうとした―――――――その時!


「キャァアア!や、やめて下さい!それ以上やるとお父さんがあぁっ!」


「くくく♪やめて欲しくば、貴様がこのクソ平民の代わりに俺様への

慰謝料となればいいんだよ♪」


「きゃぁあっ!何をするんですか!は、離して下さい!やめて......下さい!」


喧騒の声の中に、悲痛な声を上げる若い女性と、さっき騒いでいたおっさんの

汚い荒声が響いてくる。



―――ホノカとユキが威嚇をし合い、喧嘩していたこの時間より、

少しだけ時を遡る。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




レンヤ達が港街ウィークに入ってワイワイしていた同刻の時間に、

一隻の豪華船が港内に入ってきた。


豪華船は船着き場に着船すると、錨を海に降ろして船を安定させる。


そして港に降りる為の階段を慌ただしく設置すると、豪華船から

派手な服装に派手なアクセサリーを装備した、中肉中背の中年貴族が

ふんぞり反る様な体勢で港にズカズカと降り立った。


「ここがあの大国ギガン城のあるレスティー大陸か?その港町にしては...

フン、意外にお粗末で田舎な港だな!」


そのド派手な中年貴族は港に降り立つと同時に、港町の周囲をキョロキョロと

見渡し、鼻をフンッと鳴らして偉そうに呟く。


「これはギガン城を領地とする王都というのも、お里が知れるというものだな!

くくく...ははは、あははは♪」


そして中年貴族は、港街を見るにギガン城も大した事がないのだろうなと、

見下す様に下卑た笑いをこぼす。


「しかしヴィレン様。何もヴィレン様が直々に出向かなくてよろしかった

のでは?」


「そうですよ、ヴィレン様!偉き血筋を持つものとはいえ、たかが女と小娘。

そしてそれを守っているへっぽこ騎士なんぞは、我々の部下なら簡単に消せます。

その朗報をゆっくりと待てばよろしいですのに!」


そんな中年貴族...ヴィレンの背後でスタンバっていた騎士達が、何故自ら

レスティー大陸にと、ヴィレンに疑問を投げる。


「ふん、貴様らの仕事と腕前は信じてはいる。だがな!俺は無惨に殺され、

首だけになり晒したキサリとアリアの下に直接赴き、ゲラゲラと高笑って

やりたいんだよっ!」


ヴァレンはキサリとアリアを始末した後、その首を持ち帰れと暗殺部隊に

命を出していた。


「だってそうだろう!この俺という存在がありながら、俺を選ばずに

脳無しの弟を......フォーラムの皇帝だと......ふざけんじゃねぇぇえっ!」


フォーラム帝国の皇帝に相応しいのはこの俺なんだよ!


このヴァレン・グラード・ナグザー様なんだよっ!


「父上の血を色濃く分けた長男である俺が継ぐべきなんだよぉぉおっ!

それなのに...あの忌々しい女めぇええっ!マジでマジでマジでぇえええ、

ふざけんじゃねぇぞおぉぉぉおぉおおっ!!」


ゼェ...ゼェ...ゼェ...ゼェ...


ヴィレンが顔を真っ赤にしながら、父やキサリの自分への扱いに対し、

血管が切れそうな勢いで憤怒していると、


「お、おい、そこのあんた!俺の店前でギャーギャー怒鳴らないでくれないか!

怖がって客が俺の店に寄りつかないじゃないかっ!」


店の前で荒騒ぐヴィレンに、近くの店から親父が怒り顔で出てきて注意してくる。


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