第二百二十一話・グラーセ団長の作戦
「何故も何もありませんよ!だってあいつらはルコール姉さんの事を狙って
リタイにやって来てるんですよ!あいつらが東門から来る確率が高いって
いうのなら、あいつらのターゲットであるルコール姉さんがそこに突っ込んで
行っちゃ駄目じゃないですかっ!」
「うふふ♪大丈夫、大丈夫。そんな心配は無用だって!このあたしが
そう簡単に負けるわけないんだからさ♪んじゃ、ネージュ。そういう事
だからあたしはもう行くわね♪」
ネージュに別れの挨拶をした後、ルコールは東門に飛んで向かうべく、
背中から羽根を出そうとする。
「おっと!いけない、いけない。人のいっぱいいる場所とかでは、なるべく
飛ぶなよってレンヤからキツく言われていたっけ?」
懸命な表情をしたレンヤから、町とか人の多い目立つ場所で飛んじゃ
駄目だぞと、釘を刺されていたのをふと思い出す。
「やれやれ、しょうがない。東門には地道に走って行くとしますか♪」
「ち、ちょっと、ルコール姉さん!ま、待って下さ―――」
面倒だなと軽く嘆息を吐いたルコールは、地上を猛ダッシュで駆けて、
東門のある場所に走って行った。
―――東門から数キロ離れた森林。
「グラーナ団長!どうしてこんな辺鄙な場所を通らねばならないのですか!」
「そうですよ!我らは誇り高きクライア侯爵様直属、紅蓮騎士団なのですよ!
その騎士らしく、こんな回りくどい事などせず、正面から堂々と罷り通る
べきです!」
「本当に馬鹿だな、貴様らは!よくものを考えて言葉にしろ!この町にある
ギルドはな、ギガン城直下の冒険ギルドなんだぞ!そんなギルドと交戦なんて
ことになってみろ。クライア侯爵家がギガン城からお咎めを受けてしまうのは
明白だろうが!イヤ、それどころか、私達も含めて首も飛び兼ねん......いや、
確実に飛ぶだろう……」
「く、首が......」
「か、確実に......」
グラーナ団長の口から出る『首が飛ぶ』という言葉に、騎士達の表情が
サァーと青く変わっていき、身体を身震いでブルブルと震わせる。
「だから正面からは入らずに、ランス様達を手痛い目に合わせた男と
女が寝泊まりしているという宿屋に近く、また人通りが少ないこの東門から
侵入する事こそが、命を受けた討伐作戦の一番成功が高い確率なんだ!」
「し、しかしグラーナ団長、東門にも門番はいるんですよね?そこは一体どう
なされる予定なのでしょうか?」
「ふ、そこは安心しろ。あの門は元々リタイの町に何かが起こった場合の為の
非常口みたいなものでな、門番はいないのだよ!」
騎士の疑問に対し、グラーナ団長がニヤリと口角を上げて答える。
「で、でしたら、どうやって中に侵入するんですか?」
「そこも抜かりはない。先にリタイの町に侵入なされたランス様が東門を
開門してくださる算段になっている。......というわけだ。貴様達もその首と
胴体をおさらばさせたくないのならば、泣き言はやめてさっさとその足を
一歩でも前に動かせっ!」
「「「「は、ははっ!」」」」
グラーナ団長の命礼に騎士達が背筋をピンと張り、そして敬礼をビシッと決める。




