第二百八話・レンヤ、改めてお別れの挨拶をする
「さてっと...ミュミュにも挨拶しておきたかったんだが、悪いが
ギルマス。お前が代わりによろしく伝えておいてくれや!あ、そうそう。
サオリナさんとライカさんにもよろしく。そんじゃ、ギルマス。
短い間だったけどお世話になったなっ!」
「ちょ、ま、待てって!レン―――」
俺はギルマスに改めて別れの挨拶をすると、ルコールと共に急ぎギルドを
後にした。
「ちくしょう、行きやがった!......ったくよ~、面倒な事を無責任に
押し付けてやがってよぉぉお~!おかげでミュミュ達から説教を食らうのが
確定じゃねぇか......ハァ」
ギルマスはミュミュ達から怒られている姿を想像してしまうと、ポリポリと
頭を掻きながら肩を落とし、げんなりしてしまう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇ、ねぇ、レンヤ」
「なんだ、ルコール?」
「本当に良かったの?」
「良かったのって、何がだ?」
「だから、ミュミュ達にお別れの挨拶をしなくてもさ?」
「ふ、いいんだよ。しんみりは俺の性に合わないからな......」
「うふふ♪挨拶しちゃうと思いっきり泣いちゃうからでしょ♪年寄りは
涙腺が緩いからねぇ~♪」
「う、うるせいやいっ!だ、誰が泣くかよ!お、俺はクールダンディーな
大人だぞっ!ほ、ほれ、そんなことよりも、プレシアの所に別れの挨拶を
しにいくぞ、ルコールッ!」
「はいはい♪」
ルコールに図星を突かれたレンヤは、あせあせしながらそれを誤魔化し、
そして町を出ていく事をプレシアに伝えるべく、宿屋へと帰っていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ええぇぇえっ!?今日この町を出ていっちゃうって、ホントなんですか!?
だ、だっておじ様、明日とか言ってたじゃないですかぁっ!?」
宿屋に帰ってきたレンヤから告げられた、今日リタイを出て行くという言葉に、
プレシアは目を丸くして戸惑ってしまう。
「はは...。少し想定外な事が起きてしまってさ。なので予定が狂った。...とまぁ、
いうわけなんで、色々世話になったな、プレシア!」
「そ、そんな~!いくらなんでも唐突過ぎます!酷すぎますよぉぉお~~っ!」
「ちょ!プ、プレシア!?いきなり何を―――――はぐぅうっ!?」
プレシアが不満と愚痴を荒らげた後、俺に向かってジャンプする様に抱きつき
思いっきりギュッとハグをしてきた。
「お、おい、は、離れろってぇえ、プレシアッ!み、みんながこっちを
奇異の目でジロジロと見てきているだろうがぁぁあっ!」
宿屋の中で屯っていた周囲の冒険者達の...女性からは冷めた目線や蔑んだ
目線、そして男性からは羨みと嫉妬...等、奇異の目にさらされた俺は、
オロオロと狼狽えながら、プレシアを身体から振りほどこうとする。
...がしかし、
「いやですよ!絶対に離れませんから!だって、お別れしちゃったら、
おじ様に今度いつ会えるかわからないじゃありませんか!ですので、
私の心の気が済むまで、ギュッとさせていただきますからねっ!
ギュゥゥゥウ~~~♪」
「あぎゃぁああぁぁ~~!ホント、もうマジでやめてくれぇぇぇえ~~!
しゅ、周囲の...周囲の目線が痛いからぁぁぁああ~~~っ!!」
レンヤの身体から全く離れる気配を見せないプレシアを、懸命になって
身体から引き剥がそうとするが、だがプレシアは一向に俺から離れてくれず、
それどころか、レンヤを抱き締める力を更に強めてくるのだった。




