第百八十九話・錬金術
小太り貴族の持ってきた二つの人相書きによって、翻弄されまくった
あの朝の次の日。
「よし...これで準備は万端だな♪」
俺はとあるギフト技の熟練度を上昇させるべく、クエストにて
沢山ゲットしておいた薬草素材たちをアイテムボックスから
全部取り出すと、それを床一面にズラリと並べる。
「では早速、取りかかるとしますかっ!」
俺は左右の手をパンパンと叩いて気合いを入れると、床に並べた
薬草素材からそれぞれひとつずつ手に取る。
そしてギフトを発動させようとした瞬間、
「ふああ~よく寝たぁ~~。おはよう、レンヤ~♪......って、うわ!?
な、なんなのよ、これ!?な、何でこんないっぱいの薬草素材が床一面に
置かれているのよ!?」
少し遅れて目を覚ましたルコールが、ベットからゆっくり起き上がって
レンヤに朝の挨拶を交わそうとしたその時、床いっぱいに敷き詰められた
沢山の薬草素材たちに気づく。
「お。やっと起きたか、おはようさん!いやな、今日は俺の習得している
ギフト技のひとつでもある...『錬金術』を試すのと同時に、熟練度のアップを
試みようと思ってさ!」
「れ、錬金術?あんた、そんなもん覚えていたっけ?」
「なんだ、知らなかったのか?」
そう言えば、こいつには俺のステータスをチェックした後、その内容は
軽く流して伝えていただけだったっけ?
でもこいつの事だから、流し伝えでも記憶に残ると思ったんだが...
あれ?
でも確か、怒髪天の事は知っていたよな?
ああ、なるほど。
こいつ...なん百歳を越えたババアだから記憶が曖昧なんだな......。
「お可哀想に...」
「んんっ?あんた、今かなり失礼極まりない事を言わなかったぁっ!?」
ルコールが穴が空くほどの鋭い視線でこちらをジロリと睨んでくる。
それにビビった俺は、
「い、いやだなぁ~ルコールさん!そ、そんな事、ちっとも全然言って
ませんって!気のせい、気のせい!あはっあははは~~♪」
俺は否定アピール全力の表情にて、顔がグルッと一回転しそうな勢いで、
何度も何度も首を左右にブルブルと振り回す。
「その慌てよう...めっちゃ怪しいけど、まぁいい、許してあげるわ。
で、何で急に錬金術を試そうと考えちゃったわけ?昨日までそんな素振り、
いちミリも見せていなかったよね?」
「別に急でもないぞ?錬金術を試そうと思ったのは、クエストで薬草の
素材を採取をしていた時、キランッと閃いたんだよ!こいつは錬金術に
使えんじゃねぇかってさ!」
「ああ...そういえば確かにあんた、採取の数はクリアしたっていうのに
その後も薬草素材をアイテムボックスにせっせと放り込んでいたっけ?」
「それともうひとつ。この考えに至った切っ掛けがあってな。ほれ、覚えて
いないか?初めて冒険ギルドを訪れた後、屋台市場に向かってしばらく歩いた
直後くらいに俺達を待ち伏せていた、ニヤケ面がムカつく冒険者達がいたろ?」
「ニヤケ面がムカつく......?」
「くそ!あいつらのニヤニヤした面を思い出したら、またイラッとしてきた!
だた若いってだけの分際で、おっさんの事を小馬鹿にしてきやがってぇぇぇっ!」
レンヤは屋台市場に向かおうとしてた時に、ちょっかいをかけてきた冒険者達の
ニヤケ面が頭に浮かんでくると、その表情がしかめっ面へドンドン変わっていく。
「ああ...はいはい、思い出した。あの間抜けっ面で見かけ倒しも良い所だった
あのクソ冒険者達の事だね...」
ルコールは屋台市場にウキウキで向かう途中だったので、あの冒険者達から
絡まれた事がかなり気にくわなかったのだろう。
その表情がレンヤと同様、しかめっ面へとみるみる変わっていく。




