第百六十四話・往復ビンタ
「......少し話が脱線してしまったな。さっきお前に話した通り、
オークションの落札金は明日入ってくるだろうから、明日ここに
来た時、改めてオークションの報告をミュミュ辺りにでも聞いてくれや!」
「わかったよ、ギルマス!」
明日のオークション報告を楽しみにしつつ、今日も資金や路銀を
稼ぐ為に、クエストにせいを出すとしますかね。
「そんじゃ、ルコール。良いクエストが無くなる前に、クエストを
選びに行こう......ぜ......って、あ、あれ?ルコールがいない?」
俺は先程まで横にいたルコールが、消えている事に気づく。
「あ、あいつ何処に行ったんだ?」
そして消えたルコールを探すべく、周囲をキョロキョロと見渡していると、
―――あ、いた。
俺はちょっと離れた場所にあるソファー前にいる、ルコールを発見した。
だが、そこではルコールが厳つい顔をした冒険者を片手で吊り上げ、
そして能面の表情にて、何度も何度も往復ビンタをそいつに食らわせていた。
凄い勢いで放つルコールの往復ビンタで、厳つい顔をした冒険者の頬が
ドンドン腫れ上がっていく様がいたたまれなくなっていき、
「お、おい、ギルマスさんよ。あれ、とめなくても良いのか?」
...と、ギルドのトップでもあり、最高責任者でもあるギルマスに
俺はそれとなく忠告するが、
「あ、あは...あはは...。と、止めるまでもないんじゃないのかな?
あ、あの程度の冒険者同士のいざこさなんて、日常茶飯事の軽い
戯れだろうし......な?」
ギルマスがニガ笑いをこぼしながら、露骨に嫌だという口調で
あいつらの仲裁を拒否してくる。
そして、
「そ、そういうお前こそ止めに行けよ!お前あいつの相方だろうがっ!」
ギルマスの奴が責任転換の如き、俺にその仲裁を押しつけてきた。
だがしかし、
「断じて断る!」
止めに入ったら、絶対ヒドイめに会うのが目に見えてくるしなっ!
俺は間も入れず、それを速攻でお断りした。
「それにどうせ、あの男がルコールに要らぬちょっかいをかけたんだろう?
なら、ボコボコにされても自業自得だしな......」
「......だな」
そういう訳で、俺とギルマスはルコールの行為を見なかった事にした。
―――そして次の朝。
いつも通りに朝食を取った後、宿を出て冒険ギルドへとやって来た俺と
ルコールに、ニコニコした表情のミュミュが近づいてくると、昨日話して
いたオークションの落札金がギルドに送られてきたと告げられる。
そしてその後、俺とルコールは落札金を受け取ったというサインをする為、
奥にある応接室へと移動して行く。
応接室に入り椅子に腰掛けると、一緒についてきたミュミュから
オークションの手続きにはギルドカードが必要だと言われ、後ろの
ポケットからギルドカードを取り出し、それをミュミュへと手渡す。




