第百五十五話・ギルマス翻弄する
......なるほどねぇ。
「つまりはあのイケメン君と同様、その両親も空気をまったく読めなくて、
更に人の話を全く聞かなくて、果てに人の意見なんぞ全く受け入れない...
そういう人種って事か?」
俺は宿屋でのランス達とのやり取りを思い出し、苦笑をこぼしながら、
あの時の状況を思い出す。
「ああ、その通りだ。そんなクソみたいな性格のせいで、何度あいつの
両親と衝突したか分かりはしねぇよ!あいつら上位貴族の立場を最大限に
使って嵩に懸けてくんだよ!そんで尽く相手の訴えを退けていきやがる!
基本ギルドのやり方に貴族は不介入なんだがよ、あいつらその不介入の
抜けを上手く使い、直に冒険者を囲っては権力の名の下に報復を脅しに
自分に負債のない示談を進めてきやがるんだよ!......クソがぁっ!」
よほどランス達が厄介この上なかったのか、ギルマスは歯をギリギリと
音立てて、額には青筋をピクピクさせながら、目の前のテーブルを大きく
ドンと強く叩いて悔しがる。
「まぁ!うちのランスがそんなお馬鹿な事を?」
「それはお悔やみ申し上げるぜ、ギルマス!」
「お悔やみ申し上げますわ...じゃねぇよ!この頭痛の原因にはお前達も
ひと役噛んでいるんだよ!英雄の子孫と聖女のサポートがそれらに
加わるんだぞ!それに立ち向かう俺の心情を察しろや!胃に穴が空き
そうになり、何度ギルマスという立場を放棄してこの町から逃げ出して
やろうと思った事か!」
まったく悪びれる事もなく、同情の念を見せてくるアンナリッタと
ネージュに、激おこで顔を真っ赤にしたギルマスが、震える人差し指を
二人に向けてビシッと突き出すと、今までの自分に起きた気苦労話を
早口で捲し立てる様に語っていく。
「あはは...。俺もこいつらには結構痛い目にあったからな...何となく
だけど、その状況が目に浮かんでくるよ......」
俺もあの夜、全く人の意見を聞きやしない、イケメン君とこいつらに
かなりイライラをしたので、ギルマスの気持ちを察してしまう。
「ふん。少し話が反れちまったな。そんな昔の事は取り敢えず、横に置いて
おくとして...いま向き合うべき問題は、ランスの家族による報復行為の件だな。
あの野郎、絶対なにか面倒くさい事を仕掛けてくるのは目に見えてくるしな。
何せプライドの塊で構成されている様な奴だ。それがルコールみたいな小娘に
完膚なきにボコられて面子を潰されたんだ。その怒りの執拗も凄まじいだろう!」
「ああ...だろうな」
だってあのイケメン君、クソ貴族の典型的なお見本って感じだもん。
それに加えて、沸点もめっちゃ低かったしな。
「......で、あいつが今後取ってくると思われる行動についてだが、まず間違い
ないのが、レンヤ...お前の拘束と処罰だろう。そして次に考えられるのが
ギルドへの監督不行き届きによる責任と賠償の請求か?まあこいつはギルドの
やり方に貴族の介入はご法度なので却下はできる。出来るがそれを退けるのは
かなりの時間と労働を費やすだろうがな......」
ギルマスが顎に指を添え、眉をしかめ、目を瞑って思考すると、この後に
起こり得るだろう展開を次々と口にしていく。
「だが、一番有り得る事は、大好きな息子をボコボコにしたルコールを
極刑にしろと圧力という名の談判してくるか...もしくは奴隷化の打診...
この可能性が一番高いか?」
そしてギルマス瞑っていた目をゆっくりと開けると、ルコールに目線を
合わせて苦い顔でそう呟く。




