第百四十四話・もみ消し
「そっか...しっかし、こんな初歩的な情報も入ってこないだなんて、
お前の故郷、よっぽど過疎な場所にあるんだな?」
「そ、そうなんだよ。なんせ、俺の故郷は地図にも載っていない様な
場所にあるから...」
「ち、地図にも載っていないのか......そ、それはかなりの田舎だな?」
同情した口調と申し訳なさそうな表情をするギルマスを見て、
よし!何とか誤魔化せたな!
...と、俺は心の中でホッと安堵する。
それから俺とギルマスは、再び女将さんの作った料理を摘まみつつ、
酒を酌み交わしていく。
「なぁなぁ~聞いてくれよ~レンヤァ~。今日もさぁ、サオリナの奴がよ~」
「そうなんだ...そ、そいつは大変だったな。ほれ、そんな嫌な事はパパッと
忘れてしまって、明日の活力の為にも今は飲めや、飲め飲めっ!」
「うう、慰めの言葉、心から痛み入る!ありがとう、レンヤ~~ァッ!」
「のわ!?わ、わかったから!お前の気苦労は親身にわかったからさ!」
だ、だから、そんなウルウル瞳のドアップでこっちを見んといてぇぇぇっ!
さ、酒が不味くなっちゃうから!
気持ち悪くなって、食べた物を全部吐いちゃいそうだからぁぁぁっ!
俺はハゲマッチョのウルウルした表情のドアップに、またそんなに酔っても
いないのに、食した物を全部吐いてしまいそうになってしまう。
「うぐ。その露骨に嫌そうな表情がかなり気になる所だが、まあいい。それよりも
レンヤ。お前に聞き忘れていた事があったんだが...」
ギルマスが俺の放つ微妙な嫌悪感を気にしつつも、神妙な面持ちに表情を替えると、
「......お前、ランス達に手を出していないよな?」
...と、俺にそう問うてきた。
なので俺は、あの宿屋での出来事と状況を思い出し、
「う~ん、そうだな。多分、あいつらに手は出していない......と思うぞ?」
...と、答えた。
「本当か~?本当に手は出していないんだな?」
「クドイな~。でもなんで手を出しちゃいけないんだよ?仮に俺があいつらに
手を出していたとしても、それは完全な正当防衛行為だろう?」
プレシアもそう言っていたしね。
「普通はな。だが、あいつらの親共がそれを揉み消してしまう可能性...いいや、
確実にもみ消してくるだろう。更にそれだけじゃ飽きたらず、あいつら加害者を
被害者...つまり、お前とルコールが先にランス達に手を出したという事実無根な
ものに変換したもみ消しにしてくる可能性が大きい!」
「マ、マジでかッ!?」
「ああ。さっきも言ったが、あいつらの親どもは上級貴族でな。ランスの所が
伯爵。ネージェの所が英雄王の子孫で子爵。そして、アンナリッタもグラシャス
教会の上位クラス神官で、こいつもまた英雄王...聖女の子孫なんだよ。だから
その権力を笠にして案件をもみ消してくる筈だ。自分らの御家や名誉にキズを
つけないようにな!」
そういえば、プレシアが言ってたっけ?
あいつら爵持ちの御家とか?
ハァ...プレシアさんよ。
ギルマスの言う事が本当だとしたら、あの時の説明であいつらの親の厄介さも
教えておいて下さいよぉ~!
もし知っていたら、全力懸命なる大人の対応を以て、衝突回避にあたったと
いうのにさぁぁぁっ!
「だからよ、もしもあいつらに手なんて出してようものなら、お前の身が
アブねぇなと思ってよ。で、改めてもう一度問うが、あいつらに手を
出して...いないんだよな?」
ギルマスがイケメン君の親の厄介さを粗方説明し終えた後、真面目な表情で
俺の顔をジロッと睨むと、イケメン君達に手を出したかどうか、その確認を
してくる。




