第百二十九話・そしておっさんと竜娘は宿屋に帰る
「ホント、ギルドに人がいなくて助かったよ。いたいけな少年少女と
看板娘達を土下座させているこの状況を見られでもしたら、マジで
極悪人扱いをされるどころの話じゃなかったわっ!」
レンヤは最悪な状況を想像してしまい、そうならなかった事に心の底から
安堵で胸をホッと撫で下ろす。
「あ。そう言われれば、確かにギルドの中に人っ子ひとりいないね?」
レンヤの言葉を聞き、ルコールも周囲に人がいない事に気づく。
「それはな。新人殺しの件で、ギルドの営業時間を急遽早めに終えて、
ギルド員を数人残した以外、ここから全員ご退場を願ってるからだよ!」
「なるほど......だからギルド員がここに冒険者の連中が入って来ないよう、
建物の出入りに突っ立っていたんだ?」
何故ギルド内に人が誰もいないのか、その理由をギルマスから聞いた
ルコールはそういう事かと納得した。
「あれ?だったら、ムーホとステイはどうやってここに入っていたんだ?」
「え、ボク達ですか?え、えっと、ボク達は...建物前に立っているギルド員の
隙を何とか上手く突き、強引に入ってきました...」
「ス、スイマセン!どうしてもランカお姉ちゃんの危機に、いてもたっても
いられなくて.........」
レンヤの素朴な疑問に、ムーホとステイがバツの悪そうな表情をして頭を
下げると、申し訳ないといわんばかりに謝ってくる。
「まったく...本来なら、ルールを破って勝手にギルドに入ってきたお前達には
何かの罰則を食らわせなきゃいけねぇんだが...まぁ、お前達は本当にランカを
慕っていたしなぁ。ランカの危機を知ったとあらば、その心は気がきでは
なかったことは容易に想像ができる。よって、今回のお前達の罰はランカの
寄付行為にて不問として許す!」
ギルマスがそう述べた後、ムーホとステイの頭に手をポンと置く。
「ありがとう、ギルマス!」
「あ、ありがとうございます、ギルマス!」
ギルマスのかけた恩情に、ムーホとステイは今にも泣きそうだった表情を
笑顔へと変えると、ギルマスに感謝の言葉をおくる。
「さて......っと。何かもう色々あり過ぎて神経も身体も疲れきったから、
俺はここら辺でおいとまさせてもらうぞ。そういう訳だからギルマス、
ランカさんの処分の件、良い方向にしっかりと纏めてあげてくれよな。
頼んだからなっ!」
「おうよ、それは任せておけってえのっ!」
レンヤの言葉にギルマスが口角をニカリと上げて大きく胸をドンと叩いて
サムズアップを突き出す。
「後、お金の方もしっかり集めておきなさいよ。もし集めていなかったら...」
ルコールはそう言うと、右手を自分の喉元の前に持っていき、トントンと
叩いて真横にスッと引く。
「あはは...わ、わかってるって、ちゃんと集めるから!だ、だからその仕草を
やめてくれぇぇっ!」
それを見たギルマスは苦笑の顔で大慌てしながらそれをやめさせ、御詫び金は
しっかり集めるからとルコールに誓う。
「うむ、よろしい!そんじゃ、レンヤ。さっきからお腹のやつが何か食わせろ、
もう限界だぞって叫んでいるから、さっさと宿屋に戻って御飯食べっぞ!」
「わ、わかったから、そんなに引っ張るなってばぁっ!」
そしてギルマスから言質を取ったルコールは、レンヤの首根っこをグイッ
掴むと、夕御飯を食べるべく、急ぎ宿屋へと帰路するのだった。




