このくれえでおたおたすんな
その日も、別にいつも通りだった。普通に行道を胸にしがみつかせて蟷姫は狩りに出た。
行道も、虫くれえなら食べられるようになっててな。そうするともう乳には見向きもしなくなったみてえで、飲まれなくなった乳を垂れ流してる蟷姫を見て、思わず苦笑いがこぼれちまったよ。
なんか、申し訳ないみてえな気になってな。
けどまあそれはいいとして、蟷姫が行道に自分で狩りをさせるために地面に下ろすと、行道は動いてる自分の母親目掛けて飛びかかった。動いているものを餌とみなす習性が順調に育ってきてるってことだろうな。
で、蟷姫の方もそんな行道を割と容赦なくあしらったりした。
人間がそんなことをすりゃあ『虐待だ!』ってえ騒ぎになるけどよ、カマキリ怪人は人間じゃねえからな。人間の理屈は通用しねえ。
俺も、麻沙美を食った彼女のことを認めたんだ。そのくらえのことじゃ慌てたりしねえよ。慌てたりな。
とか思ってんのに、蟷姫にはたかれた行道が派手に地面を転がったりすると、ついつい、
『お、おい……!』
声が出そうになっちまう。
もちろん行道もそんくれえのことは屁でもねえ。それどころか転がりながら体勢を立て直して飛びかかったりもする。カマキリ怪人にとっちゃ普通のことなんだってのがすげえ分かる。
『このくれえでおたおたすんな』ってことだろうよ。
分かっちゃいるんだけどよ。やっぱ、なんかこう、な。
それでも行道がカマキリ怪人として順調に育ってるってえのも実感できるし、いいことなんだろうさ。
たぶんもう、普通に<小さい獣>としちゃあ生きていけんじゃねえか?ってえ気はする。生まれた時にゃほとんど棘も生えてなかった小せえカマにも、可愛らしい棘が生えてきてるしな。飛んでる虫を捕まえられるとなりゃあ、そうやって生きていけんだろ。
まだ生まれて百日も経ってねえのにだぜ? すげえよな。
なんてことを考えてたら、一気に空が暗くなってきた。
雨だ。ここは熱帯雨林っぽい植物の生え方してんのに気温はそんなに高くねえっていう妙な気候だけどよ。地球じゃねえんだからそのへんは違ってても別に変じゃねえのか。それにそこは問題じゃねえ。雷がひでえのも問題じゃねえ。
ガーン!ってえでかいのが何度もあったし落雷もあってよ、その度に行道がビクって反応してた。さすがにカマキリ怪人でも小せえうちは雷とかにゃビビんのか。蟷姫は平気みてえだったけどな。
で、特大のが川の方に落ちやがった。爆発音みてえのがして、地面までビリビリ振動しやがったぜ。
けど俺は、なんか尻がもぞもぞする気がしてよ。




