無理な負荷がかかったか
何とか逃れようと足をばたつかせるのを無視し、歯を食いしばり、全身の筋肉を意識して、それこそ全力でイノシシみてえな獣の首を締め上げると、
「ボグン!」
という感触が俺の体に伝わってきた。首の骨が折れたそれだ。ビクンって感じでイノシシみてえな獣の体が跳ねて、痙攣を始める。だが同時に、
「痛っててて……!」
俺自身の体も、首を締め上げてた形で固まっちまったような感じに。力を入れ過ぎてあっちこっちに無理な負荷がかかったか。
だが、手応えとしては満足だ。今までで一番、力が発揮された実感がある。それをゆっくりとほぐしていく。
地面に倒れたイノシシみてえな獣は、それこそビクビクと意味のない痙攣をしてた。しばらくするとそれも収まり、死んだのが分かる。そこで俺は、落ちていた枝を歯で噛み裂いて尖らせて、それをナイフ代わりにイノシシみてえな獣をばらし始める。
さすがにこのでかさじゃ俺も食べきれねえし、その場で背中側の肩肉や首筋の肉を切り取って生のままでいただく。
「こりゃ美味え!」
細かい理屈は分からねえが、とにかく美味かったんだよ。それを腹いっぱい食って、
「ごっそさん。美味かったぜ」
手をかざして俺のメシになってくれたことに感謝する。残りは他の連中へのおすそわけだ。何しろ、さっき逃げて行った連中らしいヴェロキラプトルみてえな獣が茂みの中から覗いてやがったんだよ。
他にも、ヴェロキラプトルみてえな獣の小さい版みてえなのも何匹も遠巻きにこっちの様子を窺ってやがるし、鳥も集まってきた。
で、俺がその場を立ち去ると、そいつらがイノシシみてえな獣の死体に群がって、宴会みてえな騒ぎになりやがった。ああ、食え食え。食ってガキ作ってまた増えろ。そうすりゃ俺も食い物に困らねえ。
今日のところは体に負荷をかけ過ぎた気もするし、帰って休むとするさ。回復を図らなきゃいけねえ。
新しい方の巣に戻ると、中には入らずに蟷姫の姿が見える場所に腰かけて彼女の様子を窺う。
そうして見ている限りは、大きな腹を抱えながらも彼女は穏やかに過ごしているように思える。まあ、多少は機嫌が悪いかもしれねえが、あんな腹を抱えてちゃあ大変だろうし、そりゃ機嫌も悪くなるってえもんだろ。
男の俺にゃあその大変さは分からねえ。分からねえから余計に気を遣ってやりってえんだよ。気を遣ってやりてえって気になれねえような女を選んだ奴の気分なんざ知ったことか。俺は蟷姫にそれだけ惚れてんだ。




