たかが女の取り合い
『たかが女の取り合い』と言えばまあその通りのことで相手を殺すなんざ、人間社会じゃただの犯罪だな。一人殺しても基本的にゃ終身刑だ。
だがここにゃそもそも法律なんざねえ。しかもあいつも俺を殺すつもりでかかってきやがったしな。
なんてのもただの<言い訳>か。別にテロリストってわけでもねえ奴を殺したってのが地味に効いてるわけだ。
やれやれ。
だが、蟷姫はごきげんだ。
まだびくびくと痙攣しているそいつの首筋に食らいついて食いちぎりやがった。戦おうってえ時以外にはそこまで硬くねえ部分だから、まずはそこからってか。
だからそんな首筋を無防備に俺に晒す彼女がどれだけ俺に気を許してるかってのも分かるわけだ。
そうやって、自分と同じカマキリ怪人を容赦なく食っていく彼女の姿を見ていても、気持ちが冷めるようなのは感じねえ。そんな自分にもちょっとホッとしちまったよ。あいつを殺したことを何気に気にしてる俺がこれからも彼女に惚れていられるかどうかってえ重要な話だしな。
けど、これで、俺がここでやっていけるってのも実感したぜ。
背中の傷も疼いちゃいるが、そっちは別に大した問題じゃねえ。例の蔓を噛みちぎって水を出して、傷口を洗う。こうしておきゃあ何日かで治んだろ。
ま、ぐじぐじ考えてても仕方がねえ。野生で生きるってなあこういうこった。今回はたまたまあいつが死んだが、次は俺が死ぬ番かもしれねえしな。
切り替えていこうぜ!
ってなわけで、蟷姫が食事を終えたらまた求めてきたんで、俺もいつも以上に気分が昂ってんのを感じながら彼女を抱いた。
そうだ。生きてるからこんなこともできる。てか、これこそ生きてるってえもんそのものだろ。
んで、それから一ヶ月ぐらい経ったその日、なんか蟷姫が朝から妙に機嫌が悪かった。
「キシャーッッ!!」
ってえ感じで、思いっきり牙を剥いてくる。
『俺、何か怒らせるようなことしたか?』
と思ってすぐ、
「あ、まさか……?」
とピンと来た。そのまさかだったみてえだ。
<妊娠>だ。
てか、座学はあんまり得意じゃねえ俺でも分かるぜ。まったく別の種類の動物同士じゃ普通は子供はできねえ。人間とチンパンジーの間でも、普通はできねえらしいじゃねえか。彼女が俺の子供を妊娠したってんなら、人間とカマキリ怪人は、人間とチンパンジーほども違わねえって事だよな?
まあでも、この透明な体が人間のままってこともねえかもしれねえし、気にするだけ無駄か。
そうか、俺にも子供がなあ……




