俺自身が強くなるしかねえだろ?
散々格闘術を磨いてきた俺と、格闘術なんざ知りもしねえだろうカマキリ怪人との力の差がそれほどにねえことを実感させられて、俺は、基礎トレーニングからやり直すことに決めた。
人間の社会にいた頃にゃ別に鍛えねえでも、人間相手に筋力で負けたりゃしなかったけどよ。格闘術を磨いてるだけで十分に体も鍛えられたけどよ。ここじゃあそうはいかねえんだよな。
生まれた時からそれこそ死ぬような目に遭い続けても生き延びてきた奴らだ。昨日よりも強く、明日はもっと強く、ってな調子でやってきたんだろうよ。それに比べりゃ人間の世界とか、ぬるま湯どころの騒ぎじゃねえよな。
その程度でもまったく問題なかった。弱っちい人間が安心して生きてられる世界を作ってきたわけだからな。人間ってなあ、そういう生き物だ。それは別に間違いじゃねえさ。群れて力を合わせて道具を使って生き延びるってのも、れっきとした生存戦略ってやつだ。
けどな、ここにゃ人間は俺しかいねえ。群れて力を合わせるための<他の人間>がいねえんだよ。だったら、俺自身が強くなるしかねえだろ?
そんなわけで改めて一から鍛え直す。それも、<使える筋肉>として作っていかなきゃいけねえからな。
蟷姫との手合わせの時にも、俺自身の筋肉を意識して最高の効率で力を発揮することを心掛ける。漫然と動かしてちゃあ、漫然としか動かせねぇ筋肉になる。より速く、より確実に、より適切に、筋肉を使え。
巣に登り降りする時も、てめえの筋肉がどう働いてるのか把握しろ。それを把握して、意識して、負荷を掛けろ。どこの筋肉がどう働いてる? どう力を発揮してる? 他の誰でもねえ俺自身が俺の体を分かってなくて、何ができるってんだ。
てめえを知れ。てめえを理解しろ。
獲物を取るために歩く時も、全身を意識する。<道>とか言えるようなもののねえ地面は、一瞬一瞬、状況に合った力の使い方を要求してくる。地面を確実に捉えててめえの力が一番活きる体勢を維持しろ。その体勢を維持できる力を付けろ。
その力を付けることを意識しろ。分かりやすい筋トレだけがトレーニングじゃねえ。
蟷姫もあいつも、そんな分かりやすいトレーニングなんざしてねえだろ。それでなんであんなに強い?
『元の体の作りが違うから』
ってか? それを言うなら俺だって生まれつきゴリラ並みの筋力と頑丈な体を持ってるんだ。条件は同じだろ。
生まれつき持ってるもんを言い訳にするんなら、<努力>とか口にするんじゃねえよ。




