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崩拳

俺から蟷姫(とうき)を奪うためにか、カマキリ怪人が襲い掛かってくる。獲物として狙うためならまあ当然、気配を隠して実に仕留められる間合いを図るんだろうが、単純な力比べならその必要もねえってか?


だが、俺を殺すつもりならそういう部分でも一切手加減するべきじゃねえだろうよ。


それでも、俺としても蟷姫(とうき)を譲るつもりはさらさらねえから、真っ向勝負には応じるが、手加減はしねえぞ。


両方のカマを構えて俺を捕らえようとしてくるそいつに正対し、十分に引き付けてから右拳を縦にして、真っ直ぐに突き出した。必要最小限で最短距離で最大の威力を発揮するそれだ。俺が自分の力を制御するために色々学んだ中の一つ、確か<崩拳>とか言ったか。地味だが威力は抜群だ。


しかも、一直線に真っ直ぐ突き出すそれは、相手からすると動きが掴みづらく、距離感も掴みづらく、どういうものか知らねえと、対処が難しいというのもあるんだ。


そして踏み込みについても一切手加減なくだからな。


「どずん!」


という手応えとともに、カマキリ怪人の胸の真ん中に吸い込まれるようにして命中した。


「ゲハッッ!?」


先に俺を捉えたと思ったのが逆に衝撃を受けて、胸の中の空気が弾き出されたような声を上げた。


人間とまったく違う体型や姿勢をしている獣が相手ならこうは上手くいかなかっただろうが、ここまで人間に似てるカマキリ怪人が相手なら、バッチリ嵌まったぜ。


カマの分のリーチも、『武器を持ってる』と考えりゃ対処は可能だ。


「ゲッッ! ゲヒッッ!」


十分な手応えの拳を胸の真ん中に食らったことでまともに呼吸ができなくなったか、カマキリ怪人はその場に膝を着いて、焦った様子だった。こうなりゃもう、やりたい放題だな。


だから俺もそのまま、そいつの頭をボールみてえに 蹴り飛ばそうと足を跳ね上げた。


人間なら大体これで終わりだ。手加減しねえと下手すりゃ首の骨がへし折れてもおかしくねえ。


なのにそいつは、真横に吹っ飛ぶようにして体を動かして躱して見せやがった。


『おいおい、マジか!?』


まったく本当にすげえなお前ら。感動するぜ!


人間ならそれこそ最初の一撃で心室細動を起こしててもおかしくねえ。そうなりゃもう身体なんざ動かねえ。心臓は無事でも呼吸がままならねえとなりゃやっぱり体はまともに動かねえ。それでこの反応を見せるってか? 


元々ゴリラ並みの筋力を備えてて、その上でクソほど鍛えた俺の拳をモロに食らってもこれだもんな。同じ条件で鍛えられちゃあ、俺は勝てねえってことじゃねえか。


いやはやまいった。



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