第61話 勇者と転移魔法
俺は普段とは少々発言内容が違うアルマの様子を窺ってみる。
何だかちょっと興奮気味で、期待感に目が輝いている。妙に嬉しそうだ。
「お前……俺一人で行かせたら経験値独占でレベル上げが捗るとでも思ってるんじゃないだろうな?」
「む……!?」
アルマがびっくりした顔をした。
「図星かよ! そんなに俺のレベルを上げさせて傀儡系の魔術を覚えさせたいか」
リアルサイズのガン〇ムを作って、ゴーレムみたいに操って乗る夢がまだ諦められないらしい。
確かにあの最高級のアンデッド共なら今の俺のレベルも上がるかも知れないが――
「アルマ様~。今は大変な事になっているんですから、おふざけはやめてくださいよぉ」
めっ、とレナがアルマに注意をしていた。
見た目はオトナのお姉さんに悪戯を注意される中学生の図である。
「べ、別にいいだろう、私はナオの力を分かっているし信用もしている。ナオなら一人でもあんなアンデッド共は楽勝だ。だから少々レベル上げ重視で対処しようと言うだけじゃないか。何もとんでもない無理難題を言っているつもりはないぞ」
「それはそうですけどぉ。万が一の事も考えられますから、念には念を入れたいじゃないですかあ。お兄ちゃんの事が心配ですし――それにこんな時間ですから疲れて本調子が出ないとか、あるかもですし……」
「こいつにそんな心配はいらん。元気そのものだぞ。何も無ければ、どこぞの女と何やらいかがわしい事をしようとしていた所だ」
と、アルマが余計な事を言い出した!
「えええっ!?」
「間違いないぞ。さっきでんわをしたら女の声がしたからな」
「こらアルマお前! それは今関係ないだろ、いらん暴露をするな……!」
レナがにっこりと俺の方に笑顔を向けて来る。
いつものゆるふわな感じなのだが、背後には怒りのオーラのようなものも見える。
「――お兄ちゃ~ん。どういう事ですかぁ? わたし、お兄ちゃんのためにって一生懸命働いていたのに、何でお兄ちゃんはそんな事してるんですかあ?」
「はははは……よーし、じゃあ俺が乗り込んで結界の中を掃除してくるぜ! アルマ君、早くしてくれたまえ!」
「ああ、任せておけ」
「銀騎士の鎧! 装着!」
ガシャンガシャンガシャン!
音を立てて銀騎士の鎧が俺の身に装着される。
「お兄ちゃん! 次からはいかがわしい事がしたいならわたしに言って下さいよお? わたしもこの通り大人になりましたし、何でもできちゃうんですからぁ」
「こらお前も! どさくさに紛れて下品な事を言うな!」
べし! とアルマがレナの後頭部を手刀で叩く。
「いったーい! いいじゃないですかあ、お兄ちゃんも喜んでくれますよお。ねえ?」
「いやまあ……そりゃあなあ」
しかしまあ、簡単にそういうわけにも行かないだろうが。
レナと茜社長は立場が違うというか――
茜社長はワンナイトラブ的なものを求めていたが、レナはそういう子ではない。
ああいうタイプの人と同等に扱うわけには行かない。
数少ない異世界からの知り合いであるし、社会人の同期でもあるし、レナは俺にとって大事な人間なのだ。そういう子の事はちゃんと考えてあげないとな。
「取り合えず、早く結界の中に転移させてくれ。中から破られたらマズいからな」
「ああ。では行くぞ。祝福されし英雄よ、神の扉を潜りて旅立て――!」
アルマの魔術が発動すると、俺の目の前が一瞬壊れたテレビの砂嵐のようになり何も見えなくなる。
そうしてブラックアウトした視界は、数秒で元に戻る。
そして元に戻った時は――見える風景が一変している。
既に俺の体はホテルの会議室ではなく、新宿に出現した魔の森を覆う結界の中に存在していたのだ。
さま〇うよろいスタイルの俺の近くには、不死の王やデュラハンやドラゴンゾンビ等の、最高級のアンデッドが徘徊していた。
そいつらの注目が、突然現れた俺に集まる。即座に襲い掛かって来る気配だ。
「さぁて――じゃあ掃除を開始するか」
アルマやレナ達に先程の茜社長との事を詰問されるより、こいつらの処理をしている方が楽だ。俺は軽く身構え戦いの姿勢を取った。
如何に最高級のアンデッドでも、勇者を止められはしない――!
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、↓↓の『評価欄』から評価をしていただけると、とても嬉しいです。




