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第58話 勇者と高級ディナー

「君は期待通りに上手くやってくれた。礼を言うよ」

「いえ、こちらこそお陰さまで元社長を解任して、彼の持っていた株式も引き上げる事が出来ました。どうもありがとうございました」


 俺とキノシタ広告の木下茜社長は、真っ白なテーブルクロスの敷かれたテーブルを挟み

、カチンとグラスを重ね合わせた。

 場所はキノシタ広告の近くにある高級ホテルの、最上階にあるレストラン。

 落ち着いたお洒落な内装と、窓から見えるのはキラキラした東京の夜景。

 そこで頂く高級ディナー。うーむ、ザ・大人の雰囲気って感じだ。

 その中で対面する茜社長は普段より一段と色っぽく見える。


 俺は一人でキノシタ広告を訪ね、約束通り茜社長にキノシタ広告の株式を返却した。

 これで株式の持ち合いは解消され、借りていた30%分のうちの会社の株式も、正式に俺達の会社に帰ってきたわけだ。株価が戻った後にこれを市場に流せば、またその売却益が上がるぞ。

 で、仕事の話が済むと茜社長のお誘いでここへ移動。

 こうしてグラスを合わせているというわけだ。


「ふふ――これでも人を見る目は鍛えてきたつもりだったが、君のおかげでより自信が深まったよ。君は何と言うか、雰囲気が違ったからな」


 ふむ――この人は俺の勇者のオーラ的な何かに感付いているのか?

 いや、そんなはずは無いだろう。

 しかし、俺も見た目こそ入社三年目の若手社畜だが、中身はれっきとしたキャリア十年の勇者である。

 人の生き死にも見てきたし、そういうものを背負わされながら人間側の軍隊の総大将をやってみたりとか、いろいろ経験してきた。つまり実務経験ってやつですな!

 見た目は同じ俺でも、異世界に行って来る前と後では、雰囲気は変わって来るだろう。

 そういったものにこの人は気が付いたというわけだ。


「そうですか?」


 事実を言うわけには行かないので、おれはとぼけて誤魔化しておく。


「ああ。見た目の年齢の割には老成しているというかな、芯の強さというか、落ち着きを感じたよ」

「ははは、若さがないって事ですか?」

「そうとも言えるかも知れないな。だけど褒めているんだ、許してくれ。君に嫌われようとは思っていない。今度とも何かあれば相談してくれ」

「それはどうも、お願いします」

「――で、会社を乗っ取ったはいいが、今後どう改革して行くつもりだ? 社内の文化はトップが変わったからと言って、そう変わるものではないが――」

「まず、社長だけで無く課長以上の管理職は全員退職してもらいました」

「全員だと……!? それは思い切った事をするな――管理職がいなくなると業務が立ち行かなくならないか?」

「大丈夫ですよ。元々社屋はまだあの状況ですから、まともに業務は出来ません」

「それはそうだが――」

「元々人は少ないですし、新しい管理職は下から上げればいいだけです。慣れていないのは確かですが、そのうち慣れます。それよりも間違った労働意識を持っている人間が管理職に居続ける事の方が問題ですよ。事務的な仕事はやっていれば慣れますが、根底にある意識はそうそう変わりませんからね」


 俺でも十年勇者やってれば世界を救えたし、仕事はやっていれば出来るようになる。

 しかし、三つ子の魂百までなんて言葉もある通り、意識や性格ってものはなかなか変わらない。だが人を纏めるべき管理職ってものほど、人間性が大事だと俺は思う。

 しかし人間性で、なんて言い出すと結局は更に上の人間の好みの問題だろうって話になって来る。

 結局は人間性より業務成績で管理職への採用が決まる事にならざるを得ないんだろう。


 結果、管理職になってはいけないような奴がなってしまう事も多い――

 管理職になってからも性格的に向いてそうになければ、サクッと降格ができればいいんだけどな。

 難しい問題だが、少なくともうちの会社の場合は、犬養元課長のような明確に性格も意識もおかしなのがのさばっていたので、速攻で入れ替えが絶対的に正しいだろう。

 これ以上悪くなる事はないとだけは断言できるからな。


「思い切った事をするな、君は。これからそちらの会社がどうなって行くか楽しみだよ」

「まあ、俺は会長になって非常勤でのんびりやりますんで、新社長任せですよ」


 と、茜社長と色々話しながら酒も進み、時間も過ぎて――


「お客様。そろそろ閉店のお時間です」

「ん。そうか、もうそんな時間か――分かった」


 そろそろお開きだな――結構遅くなった。帰ったらアルマももう寝ているだろう。


「じゃあそろそろ出ますか」

「ああ。だが、少し飲み足りないな――なあ直君、良かったら部屋で飲み直さないか?」

「……!」


 サラッと言って来るが、これは結構アレな事ですぞ。

 この深夜に、男女がホテルの部屋で一対一で――となるとアレだ。

 飲み直すなんて言うのは方便で、つまるところ、そういう感じのお誘いである。

 わざわざ部屋を取ってあるわけだしな。

 この人あれだな――若いツバメが好物というか、そういう人なんだな!

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