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第55話 勇者と財テク

 ガン〇ムを見ていてすっかり夜になった頃――

 和樹から連絡があり、俺達は臨時オフィスになった新宿のホテルの会議室に向かった。

 中に入ると――いたのは和樹とレナだけ。他の社員は既に帰宅済みだった。

 定時過ぎてるからな!

 前社長体制では残業代なしで終電まで働くのがデフォだったが、ホワイト化はちゃんと進んでいる様子だ。

 それまで人が働いていた痕跡はちゃんと残っており、作業用に大量購入したノートPCが席に並べられていた。

 結構結構。それに今からの話は他の社員に聞かれたい話ではないし、皆帰ってくれていた方が都合がいい。


「あっ、お兄ちゃんアルマ様、お疲れ様です~♪」


 会議室に入った俺達を、レナのゆるふわな笑顔が迎えてくれた。


「おーレナ、和樹。ご苦労さん」

「私は忙しいんだ、用は手短に済ませて貰おう」

「……アニメ鑑賞にな。たまには外出て働けって事だ。で、状況はどうなってるんだ?」


 と、俺はレナと和樹に尋ねる。


「おう、仕込みは完璧だぜ!」

「あとは指定通りの部分を結界解除してもらえればです! 画面に出しますね!」


 と、レナは証明を少し落とし、部屋に置いてあったプロジェクターを操作。

 壁に地図が映し出される――

 それは、今もなお結界に覆われたエリアの地図だ。

 その中心がうちの会社のビルだが――

 魔の森と結界は周辺のオフィス街も巻き込んでいる。

 うちの会社と同じく、それらの会社も機能不全に陥っているわけだ。


「外周の円が現在の結界の範囲ですねえ。それを――はい、このラインまで狭めて貰いたいんです」


 と、レナの操作で東側の四分の一を切り取るような線が表示される。

 その分だけ結界を解き、魔の森も浄化し通常の状態に戻すという事だ。

 結界も浄化もアルマの能力なので、ガン〇ムを見ている場合ではないのだ。


「何故そんな面倒な事をする? 一気に元に戻せばいいだろう?」

「そんなことしたら勿体ねえよ。旨味は味わえるだけ味わっとかないとな。結界の中にある他の会社もな、うちの会社と同じ状況なんだよ」

「つまり、株価や土地の値段が暴落してるって事ですねえ」

「ああ。またかぶを安く買ってかいしゃを乗っ取るのか?」

「そこまではしねえけど、安く買っておいて結界を解除したら、株価が元に戻ろうとするからまた売って差額を儲けるって事だな。すなわち財テクってやつだ」


 今回は俺の個人資産だけでなく、会社の内部留保やら資産やら、全てをフル動員してそれを実施している。和樹のコネも使って、俺の持っている自社株を担保に橘グループから金も借り入れたりしてな――

 社員の皆様にはそれらの手続きの担当してもらっているわけだ。

 足が付きにくいように、別会社やら個人持ちにしたり、色々資金の流れを分散化するような工作も込みでな。

 そのあたりの指揮は、元々会社で有能な財務担当だったレナにお任せである。

 全社員を導入しての全力の財テク! そして俺とアルマはのんびり遊びながら待って、言われたタイミングで結界を解除するだけ! 非常勤っていいなぁ!


「かき集められるだけの資金を導入して、今回正常化する範囲の会社や土地に投資をしてあります。正常化後、暴落したそれらの値段が上がりますので、売って利益を確定した後にまだ結界の中にある場所に同じことをします。ですから段階的に結界を解除して行く事になりますねえ」

「これを何回かやってるうちに、金が倍々で増えてくってワケだ。儲けのうちの何割かは俺達の懐に入って来るから、元々持って来た金が更に何十倍にも増えて、都会的スローライフがより捗る事になる――」

「もっと好きなように金を使えるようになると?」

「ああ、そういう事だ」

「おお――なら本当にガン〇ムを作ろう! 無いなら作ればいい!」

「いや、ハマり過ぎだろお前は! そこから離れろ!」

「あははは。あれ見てたんですかあ? 分かります分かります、わたしもハマりましたもん! 向こうの世界じゃあ見た事も無いような世界とロボットですからねえ、凄い衝撃ですよねえ!?」

「ああ。新鮮かつ斬新過ぎて、ぜひ現実で見たくなるな」

「ですよねえ~! わたしも一緒でした!」


 どうも異世界出身の二人は、共にガン〇ムがお好きなようである。

 確かにレナって普通に同期だと思ってた時から、俺と和樹がそういう話題してもニコニコしながら付いて来てたなあ――


「何故二人してガン〇ムにハマる……?」

「それはあれですよお、ドラ〇エとかエフ〇フとかは普通に魔法とか魔王とか出てきますからねえ。わたし達にとってはリアリティがあり過ぎると言うか――どうせならとんでもない非現実の方がお話としては楽しめるじゃないですかあ。ねえアルマ様?」

「ああ。夢があるというやつだな」

「なるほどな、逆にそうなるんだな――」


 ちょっと納得してしまった。生まれた環境の違いだな。

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