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第50話 勇者と新会長

 翌日――

 ざわ……ざわ……

 ホテルの会議室に詰めかけたウチの会社の社員達は、配られたA4の書類一枚を見て戸惑い、ざわついていた。

 皆に配った書類には、元社長が昨日付で退任した事――

 そして今日はそれに代わるトップからの挨拶と今度の方針について説明があると記載されている。

 今後の方針について説明があるのは、皆にとって想定内だっただろう。

 実際まだ会社はあの結界と魔の森の中なのだから、どうするかの説明がないと動けないのは確かだ。

 上がどうにもならないと判断したら、会社の倒産&解散もあり得る話だった。

 元社長が退任してトップが交代するとは書いてあるので、倒産は無いのかなと思いつつも、どうせなら倒産した方が後腐れが無くて良かったかも――と思う者も多いだろう。

 何せウチの会社はブラック企業界のトップエースのような会社だ、どうせ体質は変わらないし、潰れても悲しむような愛社精神を持ち合わせている者は殆どいない。

 ごく一部、犬養課長のようなパワハラ&モラハラを行うような人間はでかい顔が出来なくなるので残念がるだろうが――

 ともあれ予想外のトップ交代が、皆の戸惑いを生んでいるのは確かだ。


「うーん、ざわざわしてるねぇ」

「まあ、この状況でトップ交代とか意味分からんからな、倒産ならまだしも」


 俺は話し掛けてくる和樹にそう応じる。

 レナは会議室の入り口で社員達に書類を配っているが、俺と和樹は何食わぬ顔で普通に席に座っていた。

 偉そうに後から呼ばれて出て行くのも恥ずかしいし、普通にしていただけだ。

 他の社員から見たら、単に俺達が早く来て座っているだけに見えるだろう。

 それは、このオッサンにとってもそうだったようで――


「あっ、犬養課長、ちーっす」


 和樹が近くに座った犬養のオッサンに話し掛ける。


「……橘に有沢か――貴様ら我が社のオフィスが使えんからと言って、遊び惚けてはいないだろうな? あぁ?」


 ギロリと鋭い視線をくれる。

 何で意味も無く人を上から見下ろしてくるような態度なんだろうな、この手の奴等は。

 会社の役職が上だったら、全ての場合で相手を見下していい理由などないのだが。

 普通の時くらい普通に喋れんのか、シンプルに嫌な奴だ。

 いいオッサンなのに人間が出来てないよな。


 こういうのが高齢者になると、今社会問題化しているキレる老人化するのかね。

 会社でのこの態度を外に持ち出したら、そりゃあ誰にも相手にされんからな。

 社内でなら波風を立てまいと周りが耐えてくれるかも知れんが、外に出たらそんな忖度は無いからな。普通に距離を置かれるだろう。


「そんな事ないですよ、これでも会社のためになるようにって考えたりしてたんですよ」


 クソみてえなブラック企業をホワイト化するためになぁ!

 このオッサンが五分後どういう顔をしているか楽しみだぜ。


「ふん――口先だけは立派だが、どうせロクな事はしとらんだろう。今回の件で出勤が出来なかった分は、作業再開後の出勤日が代わりに欠勤になると思っておきたまえ」

「えええぇぇ~勘弁してくださいよ~」


 和樹がそう反応するのだが、口元がニヤニヤしている。

 止めろお前、バレるから顔に出すなよ。

 俺にもニヤニヤが移りそうになり、俺は口元を手で隠した。

 とりあえず一つ確実に言える事は、もう二度と俺達の出勤日を欠勤に改ざんする事などできないという事だ。

 俺は会長、和樹は社長。このオッサンにそれを管理する権限など無い。

 ましてや俺は会長で非常勤になるので、出勤など基本しません!

 そして何より、お前は今日でクビなんだよパワハラ&モラハラの二冠王め!


「さ、皆さんお集りになっていただきましたねえ」


 入口で書類を配っていたレナが、ゆるふわな笑顔でその場を仕切り出す。


「お配りした書類に書いてある通り、我が社の株式の過半数を取得し、経営権を持たれるようになった方がおられますのでご挨拶頂きますねえ。ではどうぞ、有沢直さん」


 と、レナが俺を指名する。


「はいどうも。ご指名頂きました有沢です」


 俺はすっと立ち上がってそう述べる。


「「「えええぇぇぇぇ~~~~!?」」」


 社員達の驚愕の声が、会議室に響き渡った。

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