第47話 ハイエルフとお寿司
元社長に解任通告し、拍手で会社を送り出して死ぬほど悔しがらせてやった。
更に退職金代わりに株式を引き取るという温情に見せかけ、持ち株を買い叩いて大損を確定させてやった。
交渉としては満点だっただろう。俺達はうちの会社の乗っ取りに成功したのだ。
これでまた一つ、ブラック企業がこの日本から駆逐されたことになるな。
後は新社長になる和樹が労働環境をホワイト化してくれるだろう。
何とめでたいのだろうか。
これから更にやるべき事はあるが、取り合えずは喜んでいいはずだ。
俺達は社長の処刑会場に使ったホテルのスイートルームを確保し、祝杯を挙げる事にした。
資金も少しは余っているし、ちょっとくらい贅沢をしてもいいだろう。
今日は俺が奢るぜ!
「えー、お集りの皆さま。今日、この日本からクソみてえなブラック企業が一つ消える事になりました。小さな事かも知れませんが、非常に喜ばしい事だと思います。というわけで皆お疲れさまでした! 乾杯!」
「かんぱ~い♪ うまく行きましたね~!」
「いやー、ざまぁ見ろだったなぁ。元社長のおっさん、顔真っ赤だったぜ。いいモン見たわ!」
レナも和樹も上機嫌で俺とグラスを合わせる。
「うむ――私が手伝ってやったおかげだぞ。感謝するんだな」
と、アルマも一緒にグラスを合わせていた。
アルマは見た目の年齢こそ中学生だが、ハイエルフなので中身は数百歳である。
普通に酒も飲めるのだが――人の目のある場所で飲ませるのは、余計な誤解を招く可能性がある。
こうやってホテルの部屋で飲む分には、密室なので問題にはなりにくい。
アルマにとってはこちらの方がいいだろう。
乾杯したグラスに入っているのは、高い酒はと言えばのアレ――ドンペリだ。
俺達が囲むテーブルにはドンペリのボトルが数本、それに運んで貰ったホテルのレストランの料理が所狭しと並んでいる。
「ああもちろん感謝してるぞアルマ。好きなだけ飲んで食うがいい! これ全部かなり高い料理だからな、良く味わって食えよ!」
「ああ、そうさせて貰おうか」
「アルマ様、お寿司もありますよお? お寿司食べた事ありますかあ?」
「おすし?」
「あ、無いんですね? これですよお」
と、レナがアルマの前にお寿司の皿を持ってくる。
「うん……これは米の上に魚が載っているのか?」
「はい、そうですよお。日本の伝統的な食べ物なんですよお」
「ニッポンとはこの国の事だな? しかしこれは、火が通っていないのではないか?」
異世界には魚の生食の文化は無かったからなあ。
生食するには鮮度が重要だが、あちらの世界の物流事情ではとてもじゃないが魚の生食を気軽にできるようにする事など不可能だ。
魚の産地なら取れたてを生食している文化もあるかも知れないが――あまり聞いた事は無いな。港のある街でも火を通して食っていたように思う。火を通した方が安全だしな。
魚を生で食うと美味いからと、生食に走る日本人がチャレンジャー気質なだけなのかも知れない。食に対して貪欲というか――
ともれあれこの寿司は食っても全然大丈夫。俺が先に見本を見せる事にする。
「生でいいんだよ。大丈夫なように新鮮な魚を使ってるんだ。ほらこうやって醤油漬けてな――食う! うわうめぇなコレ!」
俺が食った中トロが超美味いんですけど!
元社長のリアクションもメシウマ、そしてリアルな飯もメシウマ!
一仕事終えた後の宴会はいいなあ――
「ほう……ならば私も――」
と、アルマも中トロを取り上げ俺のマネをして醤油をつけて口に運ぶ。
ぱくん、と小さな口に中トロが入って行き――
「うおぉぉ!? 美味い! とろけて無くなったぞ!」
「だろ? これ一個でこの間の牛丼一杯より遥かに高いぞ、きっと」
「おお高いんだな――しかし、それだけの価値はあるぞこれは……!」
「気に入って貰えましたかあ? これがお寿司ですよお」
「おすしだな。とても美味い、気に入った。忘れないようにすまほに撮っておくぞ」
と、アルマはスマホを取り出してパシャリと画像を撮っていた。
「おぉ。お前も着実にこっちに適応して来てるな」
ちょっと見ないうちに、メシの画像をインスタに上げる系の人みたいな行動を覚えている様子である。
まだインスタとかツィッターはやってないみたいだが。
「すまほの使い方を覚えるのは面白いからな。これ一つで様々な効果を発揮するマジックアイテムのようなものだ。特にぐーぐる先生は全知全能の魔導書のようなものだしな」
うん、最近のアルマの趣味はネットサーフィンである。
グーグル先生で色々調べて、こちらの世界の事を調べたりしているらしい。
頭の良さは半端ないハイエルフ様の事だから、グーグル先生さえ使えるようにしてやれば、あとは勝手にこちらの事を覚えて行くだろう。
「ああそうだな。さぁガンガン飲んで食えよ! 今日は祝勝会だからな!」
俺達はワイワイとやりながら、やがて夜は更けていった。
真っ先に和樹が潰れてベッド行き、続いてレナも、アルマも――
スイートルームには寝室が二つ、ベッドは四つある。
男性陣用と女性陣用に使い分けられるので、都合がいい。
「さて、みんな寝ちまったし俺は風呂でも入ってから寝るか――」
せっかくスイートに泊まりに来たのだし、でかい風呂を堪能してやろう。
会社関係の事が落ち着いたら今のワンルームから引っ越しをしようと思うが、新しい家の風呂をどうするかの参考にもなるかもな。
「は~家の風呂と全然違うなあ。足が伸ばせるどころの騒ぎじゃねえぞ」
一人だと完全にスペースが余るな。何人用だこれ。四、五人は入れそうだぞ。
しかも当たり前のようにジャグジーが付いていて、非常に気持ちがよろしい。
「さすがスイートルームさんは格が違うな。新しい家もこんな風呂にしてえなぁ……」
と、コンコンと浴室のドアがノックされた。
そしてガチャリと開き――
「お兄ちゃ~ん。背中を流しに来ましたよぉ♪」
湯煙の中現れたのは、バスタオルを体に巻き付けたレナだった。
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